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Business & Economic Review 2009年12月号

【特集2 ヒトの面からみた地域再生】
新たな成長地域を求める、わが国の人口流動

2009年11月25日 藤波匠



要約

  1. 本稿の目的は、地域間および国境をまたぐ人口の動き(人口流動)を整理し、今後の人口流動の方向性とそれに伴う問題点について明らかにすることにある。

  2. わが国における2008年夏までの人口流動は、東京をはじめとする大都市に向けた流入の動きが顕著で、とくに直近3年間は、過去20年間で東京圏や愛知県への転入超過数が最も高い水準にあった。一方、地方では福岡のような中核的な都市ですら人口が流出していた。

  3. しかし、2008年秋以降、全国的な景気の悪化により、大都市への集中の動きに変化が生じている。東京圏や愛知県では、転入超過数が減少し、月単位でみれば転出超過となった月もある。もっとも、他の特定の県や地域への流入が増えているというわけではなく、各県の転出入の超過幅が小さくなったに過ぎない。わが国経済が萎縮するなか、人口流動は「停滞」している状況にある。

  4. 国境をまたぐ人口流動についてみると、日本人の海外への流出は、これまで長期的な増加基調に
    あった。これは、海外永住者が年々増加してきたことと、企業の海外進出に伴う関係者の出国が増えたことによる。なお、2008年9月までの1年間は、景気悪化に伴う企業関係者の帰国数よりも、永住者などの増加が上回り、過去20年で最大の出国超過となった。ただし、2008年秋以降は、景気悪化の影響を受けた企業関係者の帰国増などにより、出国超過数は前年同時期に比べ減少傾向にある。出国者の年齢構成を見れば、とくに近年、若い世代で「永住」「留学」を理由とする出国が増えていることが推測できる。

  5. 一方、在留外国人の出入国の状況をみると、製造業を覆う不況の影響をまともにかぶった格好で、2008年秋以降、日系ブラジル人を中心に出国超過となっている。職を失った外国人に対し、帰国支援制度などが実施されていることも、この流れを後押ししている。

  6. このように、経済環境の急激な悪化を受け、現在わが国経済全体が萎縮し、人口の流れも全体的に停滞状況に陥っている。しかしながら、現在の状況はいわばショック状態にあり、この状態が長期化するとは考えにくい。企業は新たなマーケットやより有利な経営環境を求め、人は雇用機会や高い所得を求めて、成長地域を目指し移動すると考えるのが一般的であろう。
    これまでわが国でもみられた、より成長力のある地域に人が移動するという基本的な考え方のもと、世界経済が徐々に秩序を取り戻し、国内外に成長の核が見えてくることを前提として、中長期的な人口流動の方向性を展望すれば、下記の通りとなる。
    ①企業の生産拠点の海外移転や国内における雇用の受け皿不足などにより、日本人、外国人を問わず、雇用機会を求めて海外に流出する若い世代が増加する。しかも、海外への人口流出により国内マーケットの縮小が進めば、企業の流出は一層加速され、人口と企業の流出がスパイラル状に連鎖することも予想される。
    ②日本人の国外流出状況を地域別にみると、とくに東京圏からが多くなっている。国内の人口流動とあわせて考えれば、若い世代が地方から東京に集まり、そのうちの一部が海外に流出している構図がイメージされる。国際的都市間競争の行方次第では、将来、東京が人口流動のダムとはなりえず、地方都市から人口を吸い上げ、その分海外へ流出させるポンプ役に陥ることも懸念される。
    しかも、域外からの人口流入により人口ピラミッドのバランスを維持してきた東京の人口吸収力が弱まったり、海外への流出が増えたりすれば、東京都では20歳代から30歳代の年齢層が急速に減少し、「東京の高齢化問題」に拍車がかかる。
    ③東京以外の地域については、成長の核となりうる企業や産業を域内に形成できなければ、海外や他地域への人口流出を抑制するすべはなく、人口減少と衰退に拍車がかかることは避けられない。

  7. 人口流出と経済規模の縮小という衰退のスパイラルに入り込まないためにも、海外からの投資や優秀な人材を呼び込む態勢を築くとともに、現在国内で活動する企業の存続や発展を促すべく、国レベル、地域レベルでそれぞれが成長戦略を描き、雇用を創出することが不可欠である。その際、単独で成長戦略を描くことが難しければ、県境を越えた広域連携を視野に入れることが必要となる。さらに、地方の都市では、今後の急速な人口減少を正面から受け止め、コンパクトな都市形成や財政のスリム化などが不可欠となる。

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