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【論文】
わが国国債市場の抜本的改革の方向性-望まれる市場の効率性・流動性の向上

1999年09月25日 調査部 河村小百合


要約

国債大量発行時代を迎えた今日、わが国にとっては、(1)政府の資金調達コストの最小化を図りつつ、(2)金融市場の中核となる国債市場の効率性・流動性をいかに高めるかが喫緊の課題となっている。重要なことは、この(2)の点が実現されれば、(1)の目標の達成ににも自ずと資する、という点であり、本稿においては、こうした問題意識の下、わが国の国債市場の抜本的改革の方向性を、発行方式、流通市場、消化・保有のあり方等の観点から検討する。

国債発行方式を検討する上では、国債の満期構成の操作と、発行形態の工夫の2つの着眼点がある。まず満期構成の面では、わが国の国債は従来から10年債を中心とする長期債にかなり偏って発行されており、流通市場の状況をみても、10年債のうち残存期間7年以上の部分に現物の売買のかなりの部分が集中している。市場関係者の間では、「わが国の国債の価格は、最も流動性の高い10年債先物市場で事実上決定され、現物市場の価格は、先物受渡適格銘柄(残存期間7年以上)を中心に、先物市場との裁定の形で決定される」という見方が一般的である。こうした状況下で、国債の発行、および実際に市場に流通する玉の年限の多様化が図られつつある(99年4月よりFBの市中売却開始、5年債も近々発行される予定)が、こうした措置は、市場参加者の参入意欲にプラスに作用するとみられるほか、イールド・カーブの円滑化などの形での市場の効率化にもつながり、ひいては政府の資金調達コストをある程度抑制することも可能になろう。また、国債の発行形態の工夫の面では、わが国としても、市場の効率性や流動性を高める上で、他の主要国で既に導入されているストリップス債やインフレ連動債を導入する意義があると考えられる。

国債流通市場の改革は、市場参加者がその主体となって対応を講じるべきものである。わが国の場合、(1)信用リスクをほぼ削減する形での短期金融取引を可能にする手段として、近年主要国で急成長しているレポ取引は、国債流通市場の短いタームの部分での効率性・流動性の向上に資するものであるが、わが国としても、その形態を、現行の現金担保付の債券貸借から、諸外国において主流になっている買い戻し(売り戻し)合意付の売買に改めるなどの改革を実施し、レポ市場のさらなる拡大を図るべきであると考えられる。また、(2)利付債の利回り表示方式を、従来の日本独自の単利方式から、他の主要国に足並みを揃えた複利方式に変更すべきであろう。さらに、(3)決済制度の面では、国債の決済所要期間のさらなる短縮化のほか、非居住者による投資の便宜を図るべく、国際的な証券集中保管振替機構(セデル、ユーロクリアー)がわが国の国債の決済システムにアクセスできる体制を整えるべきであると考えられる。

わが国の国債の保有動向をみると、(1)政府や中央銀行による国債の保有シェア、とりわけFBを除く狭義の国債に占める政府の保有シェアが、他の主要国対比で突出して高い、(2)個人が直接的に国債を所有するシェアは低い、(3)非居住者による国債の保有シェアも低い、といった特徴がある。(1)(2)の点は、財政投融資制度のあり方と深く関連しており、わが国の場合、郵便貯金等の形態で集められた家計の貯蓄性の資金を背景に、国債の発行主体でもある政府が多額の国債を保有しているのが実情であり、単に発行市場において国債を引き受ける(消化)のみならず、流通市場においても、国債の買い手としてしばしば登場する(「資金運用部オペ」、「国債整理基金オペ」)という、他の主要先進国にはみられない特徴がある。政府による国債の保有シェアがこのように大きいことは、一般的にみても市場流動性を阻害すると考えられるほか、民間の市場参加者とリスク選好の全く異なる政府が流通市場においても大きなプレゼンスを占めることは、長期的にみて市場の効率性を阻害するおそれが強く、大きな問題である。わが国としても、今後の財政投融資制度の改革に合わせて、米英等でみられる非市場性の国債を政府部門向けに発行し、民間市場参加者によって構成される一般的な国債流通市場とは明確に区別することが望ましい。また、個人向けの国債としても、この非市場性国債の形態を活用すれば、国民の各層のニーズに合わせて商品設計を細かく設定し、比較的小規模のロットで発行することも可能になるため、国債の円滑な消化にも資するものと考えられる。
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