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【PERSPECTIVES】
全銀システムの決済リスク対策を検証する

1999年04月25日 調査部 河村小百合


要約

1997、98年に生じた、わが国の大手金融機関の経営破綻のケースでは、複雑に絡み合った金融取引の一端のデフォルト(債務不履行)の影響が、決済システムを通じて全体に瞬時に拡大する、というシステミック・リスクが現実のものとなる事態はかろうじて回避されてきたが、今後について、同様に対処できる保証はなく、事前に十分な決済リスク管理対策を講じておく必要がある。

こうしたなか、わが国の主要な民間決済システムの1つである全銀システムについて、決済リスク管理策の改革案が発表された。そもそも、民間時点ネット決済システムのリスク管理の基本的な方策としては、決済リスク顕現化の際の損失を資金の送り手側が負担するか、受け取り手側が負担するのかに応じ、(1)デフォルターズ・ペイ(破綻者支払)と、(2)サバイバーズ・ペイ(残存者支払)の2つのアプローチがあり、前者は決済の安全性は高い(=リスクは低い)が、効率性は低い(=コストは高い)、後者は決済の安全性は相対的に低くなるが、効率性は高い、という特徴がある。全銀システムの今回の改革案である「保証行責任方式(担保・保証責任方式)」は、このデフォルターズ・ペイ方式とサバイバーズ・ペイ方式を複雑に混在させたリスク管理システムであり、決済の安全性の面では高い水準が達成されており、グローバル・スタンダードにも合致するものの、決済の効率性の面では、諸外国に比し低い水準しか達成されていないと評価することが可能である。

民間時点ネット決済システムにおいて、決済の安全性について一定のレベルを達成しつつ、決済の効率性を高めるためには、サバイバーズ・ペイ方式をできるだけ完全な形で導入することが必要となる。そのためには、(1)参加行間で、相互の信用度の高さに関する、確信を持った判断が共有されていることのほか、やや技術的ではあるが、(2)決済システムに支払指図を入力する前の時点でのバイラテラルなネッティング(例えば、同一銀行を相手とする同日付の仕向<支払い>、被仕向<受け取り>の取引等、あらかじめ相殺できる部分はしておくということ)を可能な限り行い、支払指図の金額を極力縮小すること、という前提条件をクリアーすることが必要になる。全銀システムの場合は、今日のわが国の金融システムが大きな転換点にさしかかっていることもあって、この前提条件のいずれもが満たされなかったために、サバイバーズ・ペイ方式を完全な形で導入することができず、結果的に決済の効率性を犠牲にしたリスク管理策を策定せざるを得なくなったものと考えられる。

カナダの民間時点ネット決済システムであるLVTSにおいて、本年2月に稼働を開始した決済リスク管理システムは、わが国のシステムの今後の改革のありかたを考えるうえで大いに参考になる。すなわち、LVTSにおいては、支払指図ごとにサバイバーズ・ペイ方式を利用するか、デフォルターズ・ペイ方式を利用するかを選択できるシステムとなっている。このため、全銀システムの改革案とは異なり、サバイバーズ・ペイ方式で決済を処理できる部分が明確となり、結果的に参加行の所要担保のレベルを、完全なサバイバーズ・ペイ方式に近い水準にまで下げることが可能になっており、決済の安全性の面のみならず、効率性の面でも高いレベルを達成しているのである。

今後予想される金融情勢に鑑みれば、決済リスク管理の重要性はさらに増すと考えられる。全銀システムの改革案にはなお改善の余地があり、今後については、サバイバーズ・ペイを基本とする方式に改めるべきであろう。そのためには、まず、各行の経営情報の開示の一層の充実などを通じて、参加行相互の信用力に関する信認の醸成を図ることが必要である。そのうえで、デフォルターズ・ペイ方式を残すのであれば、決済の効率性のレベルを維持するために、カナダのような方式を検討することが望ましい。決済リスク管理は、インターバンク取引等と同じく、決済システム参加行が、相互の信用リスクをリアルタイムで評価する場である。今後は、安全性と効率性の双方に配慮した、きめの細かい決済リスク管理策の構築が求められていると言えよう。
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