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Business & Economic Review 2000年11月号

【論文】
体質改善が進むユーロ圏経済-構造改革と通貨統合の成果が顕在化

2000年10月25日 調査部 岩崎薫里


要約

ユーロ圏経済の好調が続いている。これは、ユーロ安や家計向け減税といった外性的、政策的要因にとどまらず、90年代以降の経済体質改善に向けた各国の構造改革努力が結実しつつあることに起因する。

欧州大陸各国では、90年代に入って、市場原理をより重視し、民間活力を引き出すことを通じた高コスト体質是正に向けての構造改革に本格的に着手した。国民全般の意識変革の遅れなどもあり、改革スピードの緩慢さは免れないものの、(1)思い切った規制緩和・民営化策、(2)構造的な失業問題に対応するための労働市場の柔軟性を確保する諸施策、などが推進された。

一方、企業サイドでは、収益基盤の強化と諸コストの削減に向けた抜本的なリストラが実施されてきた。とりわけ、独仏など雇用コストが国際的にみても高レベルに達している国の企業は、雇用コストの削減に注力し、その結果、旧西独企業の売上高税引き前利益率は98、99年とも過去最高水準に達したのをはじめ、企業の収益体質強化策が成功を収めつつある。

1999年の通貨統合は、ユーロ圏経済に対して主に次の2つの面で大きな影響を与えている。第1は、財政面である。通貨統合への参加に当たり課された財政基準をクリアするために、各国とも厳しい財政収支改善策を採った。それが奏功して、96年に至るまで名目GDP比で概ね4~6%近辺で推移していたユーロ圏の一般政府財政収支赤字は、97年以降急速に改善し、99年には名目GDP比1.2%まで縮小した。さらに、こうした財政収支改善を背景に、各国とも減税策を相次いで実施しており、とりわけ2000年7月にドイツで成立した税制改革法が契機となって、ユーロ圏内で法人税率の引き下げ競争が始動している。

第2は、事業再編である。通貨統合は事業再編に拍車をかけており、それを映じて、欧州でのM&A件数が99年に一気に急増し、クロス・ボーダーM&Aにおいても欧州企業関連が圧倒的シェアを占めるに至っている。事業再編の中身をみると、従来のコスト圧縮から、収益基盤の抜本的強化を目的にしたものにシフトしている。具体的には、(1)高収益の見込める分野へ事業を絞り込んだうえで、(2)事業の地理的基盤を強化しマーケット・シェアを高めることを狙いとしている。

今後を展望しても、構造改革の流れには大きな変化がないばかりか、むしろ一段の加速さえ期待できる。これは、減税競争に加えて、ユーロ圏でも、IT革命推進に向けた動きが本格始動しているためである。こうした点を踏まえると、今後、ユーロ圏では、企業の収益体質強化を原動力に、雇用情勢の好転や設備投資の増加を中心とする民間需要の盛り上がりを通じて、経済のダイナミズムがさらに増していくことが期待される。わが国においても、このままではアメリカのみならず欧州からも取り残されかねないという危機意識を官民で共有し、経済政策の軸足をマクロ的な財政金融政策から経済構造改革へと大胆にシフトさせていくことが肝要であろう。
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