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Business & Economic Review 2001年12月号

【POLICY PROPOSALS】
循環型社会構築に向けた産業廃棄物処理への公共関与の在り方
-産業廃棄物処分で求められる、適正な市場メカニズムの構築-

2001年11月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 藤波匠


要約

近年、最終処分(埋め立て処分)される産業廃棄物の量は減少しているにもかかわらず、新規の最終処分場建設数も急減していることから、処分場の不足は深刻化している。そこで、公共が処分場を積極的に設置して、この局面の打開を図る動きがみられ始めた。しかし、この政策は、処分場の過剰供給が懸念され、また処分量の増加を促がす危険性があることから、循環型社会を目指すわが国が選択する手段として、好ましいものとはいえない。

循環型社会とは、廃棄物の発生を抑え、再資源化を推進し、最終処分が必要な廃棄物自体を減らすことであり、処分場を必要十分量供給することではない。むしろ、最終処分される廃棄物の削減へとつなげる政策が、求められる。

現在、産業廃棄物の最終処分量と処分場供給量の関係は、処分量よりも供給量の方が圧倒的に少ないミスマッチの状態にある。これは、安い処分価格による処分量削減へのインセンティブの低さと、処分業が魅力的な市場でないことから新規建設が進まないことが原因である。したがって、処分価格を適正なレベルにまで引き上げることができれば、処分量は削減され、処分場供給量もある程度増えるだろう。すなわち、処分事業において市場メカニズムが適正に機能することが必要なのである。

市場メカニズムの適正化に向け、必要な政策は次のとおりである。
(1)中小企業対策の在り方の工夫
(2)公共処分場設置計画の見直し
(3)信頼される民間処分場設置

最終処分価格が適正なレベルにまで上がらない要因の一つとして、地方自治体による中小企業対策としての低価格での引き取りがある。この政策は、廃棄物の発生にとって、増加へのインセンティブとなりかねない。中小企業対策を行うのであれば、廃棄物を低価格で引き取るのではなく、発生抑制や再資源化を促がす補助金などで実施すべきである。

公共関与の名のもとに、全国で自治体による産業廃棄物の処分場建設が計画されている。これは、処分場の過剰供給を招く恐れがあり、過剰供給は処分価格を下落させる。結果として、最終処分量の削減を補助金や税制のみで達成しなければならず、処分場建設費用と併せ、国や自治体の財政的負担は増える。自治体による処分場建設の推進は、再検討すべきである。

信頼される民間処分場の設置のために公共が行うべきこととして、不適正な処分場に対する法令順守の徹底、行政処分、告発等の強化は不可欠であるが、その他にも公共の役割が指摘できる。 まず、(1)法的拘束力のない指導要綱ではなく、「上乗せ」、「横出し」など、条例による監督体制の確立が求められる。次に、(2)処分事業者の経営破綻や、処分場における環境汚染事故の際に、行政としてどのような対応を行うのかといったマニュアルを策定し、公表することである(セーフティーネットの構築)。さらに、(3)処分場閉鎖後の跡地利用について、ビジョン作成への行政の参画が求められる。これらの枠組みを行政が整えることで、民間事業者であっても、信頼される最終処分場を建設できるはずである。

以上の政策を実施し、さらに最終処分量の目標を、2010年に2,000万トン(国の目標は3,000万トン)にまで引き下げれば、自治体による積極的な処分場建設を行わなくても、廃棄物行政が破綻することはない。たとえ、一時的に産業廃棄物の処分場が不足しても、一般廃棄物の処分場を、最大でも現残余容量の一割程度を緊急避難的に利用することで、対応が可能となるからである。 また、2,000万トンの目標も、取り組みの遅れている中小企業に対し発生抑制や再資源化を促がすことなどで、達成が可能と考えられる。

循環型社会構築に向けた産業廃棄物処理への公共関与の在り方としては、公共が直接産業廃棄物を処理するのではなく、間接的な、すなわち枠組み造りに徹することである。これが、最終処分量の減量化、ひいては、産業廃棄物の発生抑制、再資源化の促進へとつながるのである。
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