コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

【OPINION】
特殊法人改革の着地点を吟味せよ

2001年11月25日 調査部 金融・財政研究センター 河村小百合


1.特殊法人改革をめぐる状況

特殊法人改革は、構造改革の断行を看板に掲げる小泉内閣の目玉政策の一つである。この半年の間、各特殊法人をいかに改革するかをめぐり、首相の膝元である内閣官房に設けられた行政改革推進事務局と、各特殊法人を所管する各府省との間でのせめぎ合いが激化している。

小泉首相は、特殊法人の改革に当たり、廃止もしくは民営化という原則を掲げている。しかしながら、現在77 存在する各特殊法人の民営化の可否に関する、9月時点での各府省の報告には、様々な理由付けとともに、軒並み「不可」の文字が並んだ。組織の改革案が例外的に示されたのは、一部の特殊法人-道路系3公団(日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団)と本州四国連絡橋公団、住宅金融公庫、都市基盤整備公団、石油公団等にとどまった。これらはいずれも、個々に抱える問題の大きさから、今回抜本的な改革が避けて通れないとの見方が一般的になっている先である。

上述の7 特殊法人の9 月時点での所管府省の改革案を具体的にみると、道路系3公団については1公団に統合した後特殊会社化、本四連絡橋公団も特殊会社化、住宅金融公庫は改革後に手がける事業ごとに独立行政法人化ないし特殊会社化、都市基盤整備公団は管理業務を先行して民営化したうえで公団本体は特殊会社化、石油公団は現行組織の廃止を前提にゼロベースで見直し、となっている。石油公団についてはその後、経済産業省が石油開発部門を特殊会社化、その他の業務を二つの独立行政法人に移管する改革案を示した。その後も道路系3公団については自民党から独自の改革案が発表されるなど、議論はさながら百家争鳴状態である。10月下旬には扇大臣が、国土交通省案をいったん白紙に戻すと表明するなど、今後の情勢はかなり流動的で、政治的な意思決定に大きく左右されるものとみられる。

これまで約半年間の議論の進展から明らかになったことは、各特殊法人を所管する各府省の、改革に対する抵抗が極めて根強いものであるということである。例えば、先行して検討が進められている、国土交通省所管の特殊法人の改革案にしても、同省の提示する改革案は幾度も首相サイドにはねつけられ、数回の押し問答のあげく、ようやく上述のような改革案が出てきているに過ぎない。その他の特殊法人を所管する他府省に至っては、ひたすら改革の「嵐」が通り過ぎるのを待つかのごとく、沈黙を決め込むか、さもなくば、何とか所管の特殊法人の存在意義を世論にアピールできないかと、不況下でセーフティネットの役割を果たし得るような新たな事業を、財政コストを度外視で探し出しているような状況である。いずれも、主体的に特殊法人改革に取り組むようなスタンスからはほど遠い。

これに対して首相を中心とする改革推進派も、抵抗勢力の動きの封じ込めを図る余りに、結論をかなり急いでいるように見受けられる。特殊法人を所管する各府省側が、各法人が担当する業務の本質的な見直しを避けようと画策していることとも相まって、結果的に、各特殊法人の組織を改めること自体が目的と化している感を禁じ得ないのが実情である。法人の業務・組織を抜本的に改めるに当たって、本来、どのような業務・機能をいかなる形態で行うことが望ましいのかについて、十分な議論が尽くされているとは言えない。本稿では、特殊法人の改革後の組織形態としてはいかなる型があり、最終的な着地点として、これらをいかに使い分けるべきか、また、今後特殊法人改革の議論をいかに進めるべきかについて考えたい。

2.官と民の間-法人の類型の整理

特殊法人の改革後にとり得ると考えられる組織形態には様々な型が存在する。現在わが国で具体的な枠組みが存在し、実際に用いられているものだけでも、「特殊会社」、「民営化された特殊法人」、「独立行政法人」といった類型がある。
これらはいずれも、純粋な「官」と純粋な「民」との間に位置する形態であるが、それぞれどのような特徴があるのか、どのように使い分けることができると考えられるのかをみてみよう。

特殊法人
そもそも特殊法人とは、特別の法律により特別の設立行為をもって強制設立される法人をいう。具体的には、公庫、銀行、公団、事業団等の様々な形態があり、後述の特殊会社も特殊法人の範疇に属する。全額政府出資の組織が多いものの、中には商工組合中央金庫や、特殊会社の一つである日本電信電話株式会社(NTT)のように、半官半民の組織も存在する。資金調達面では、財投機関債の発行等により自己資金調達を行う機関も一部存在するが、多くの先は経済的に国への依存度が極めて高く、一般会計や特別会計からの出資、補給金や交付金等の支出等、様々な形で支援を受けている。また、全77の特殊法人のうち、財政投融資の対象機関となっている先も50余りに上る。なお、特殊法人の新設や目的の変更等に際しては、総務省の審査に服する制度になってはいるが、各所管府省の監督ぶりを含め、特殊法人の経営状況については、特殊法人の事業が一般的に公共性を有している点を錦の御旗に、当該各法人と国(所管府省)の双方について、全般的に経営に対する責任意識が希薄であったことは否めないだろう。
ちなみに、いわゆる「認可法人」は、その存在自体は特別の法律に基づいてはいるものの、民間等の関係者が発起人となって自主的に設立するものである点が、特殊法人とは明確に異なるものである。

特殊会社
特殊会社とは、特殊法人のうち、商法上の株式会社として設立されているもので、現在存在するものとしては、分割後の日本電信電話株式会社等のNTT関係3社、東日本旅客鉄道株式会社等のJR 関係7 社、日本たばこ産業株式会社、電源開発株式会社、関西国際空港株式会社の計13社がある。株主は100%政府のものと、半官半民の先とがあるが、いずれも設立根拠法となる個別設置法が残っている。いわば「半民営化」状態と言えなくもないが、電源開発の例をみればわかるように、この特殊会社という形態を長年とっていても、政府から多額の補助金等を得て経営を成り立たせており、他の特殊法人と実態は何ら変わらない例もあり、民営化の一歩手前の形態と評価することは必ずしも適当ではない。

民営化された特殊法人
わが国の場合、完全な民営化の一歩手前の段階の組織形態として、一般的な認知度は低いが、「民営化された特殊法人」という型がある。これは、組織の所有は100%民間によるもの(ただしその形態は株式会社には限らず様々)で、その担う事業が公共性を有しているため、設立根拠法となる個別設置法が残っているものである。その設立形態は特殊法人の定義に当てはまるが、民営化の度合いが高いため、その目的の変更等に際して、総務省の審査は及ばないことになっている。この形態をとる機関は現在8つ存在するが、いずれもかつては完全な特殊法人であったものが、民営化の度合いを高めるべく改組されたもので、具体的には、中小企業向けの出資を行う東京、名古屋、大阪の各中小企業投資育成株式会社や農林中央金庫等が存在する。
この「民営化された特殊法人」とは、1983年3月の臨時行政調査会第5次答申によって示された、「特殊法人等の自立化の原則」に則る組織形態である。この原則(メルクマール)として具体的には、(1)制度的な独占が排除されていること、(2)国またはこれに準ずるものからの出資を制度上、実態上廃止していること、(3)役員の選任が自主的に行われていること、(4)経常的な事業運営の経費が、自立的に確保されており、国またはこれに準ずるものからの補助金等が廃止されていること、(5)その他政府の関与を最小限とするための制度改正を行い、経営の活性化、事業の効率化が図られていること、といった点が示されている。要するに、事業の公共性に鑑み、設立根拠法が、完全な特殊法人時代のものに多少手を加える形で残されているのみで、組織の所有や財務運営といったその他の面では完全な民間会社に近いのがこの形態と評価できよう。

独立行政法人
このほか、今回の特殊法人改革の議論においては、独立行政法人という類型が登場する。これは、2001年1月に実施に移された中央省庁等改革を検討するに当たり、96年にスタートした行政改革会議が考案したもので、いわば前回行革の目玉ともいえる制度である。イギリス等にみられるエージェンシー制度がその下敷きとなっており、その最大の眼目は、政策の企画立案部門から分離された執行部門を担う主体を確立し、国の事前関与や統制を極力なくし、弾力的な組織・業務運営を可能にすることによって、効率性を向上させ、透明性が確保された新しい法人形態を作り上げることにある。
独立行政法人化に当たっては、上述の行政改革会議の最終報告によって、以下のような具体的な基準が示されている。すなわち、(1)国民生活・社会経済の安定等の公共上の見地から、その確実な実施が必要とされること、(2)国が自ら主体となって直接実施しなければならない事務・事業ではないこと、(3)民間の主体に委ねた場合にはかならず実施されるという保証がないか、または公共的な事務・事業として独占して行わせることが必要なものであること、といった点である。
また、本制度は、そもそも国の行政事務として行われてきたものをいかに切り離すかという視点で創設された制度であり、その所要資金の手当てに際しては、国が全額面倒をみることを前提としており、財政面での自立度は極めて低いという特徴がある。

3.まず特殊法人の各事業を、そしてその組織形態を徹底的にせよ

わが国の特殊法人の分野においては、人事面や予算面でつながりの極めて深い所管府省や、従来の利益誘導型政治によって関係を深めてきた各族議員等、極めて厚い既得権益層がすでに形成されてしまっている。抜本的な改革を断行しようとすれば、抵抗勢力の動きを排除することが不可欠であり、そのためにはスピードをつけて改革を進めることが必要である。もちろん、結論を急ぐ余りに、個々の特殊法人に関する検討が拙速に陥ったり、また、実質的な検討対象となる特殊法人にもれが生じてしまっては、改革に実効性が伴わないばかりか、国民生活にマイナス影響が出るおそれもあることには十分留意する必要がある。スピードも大切だが、それ以上に重要なことは、改革を骨抜きにしないことである。

単なる看板のかけかえは無意味
確かに、各特殊法人の抱える問題点は様々で、改革の意義もそれぞれ異なる。戦後50 年余りの年月の流れを経て、民間で対応可能になっているため、官が手がける必要性は乏しくなっている事業、国民の得る利益に比して明らかに財政負担が大きくなっている事業、明らかに民業を圧迫している事業、不透明な経営により非効率な運営が温存されている事業など、個別の事業について見直しの目的を明確にすることがまずもって必要である。しかし、特殊法人改革に関する現在の議論をみると、組織の形態を変えること自体が改革の目的と化しており、改革そのものが事実上骨抜きになりかねない危惧を覚える。

例えば、国土交通省が9月に提示した、特殊会社化という案自体では、単なる看板のかけかえに終わる可能性が高い。なぜなら特殊会社とは、すでにみたように、組織形態こそ商法上の株式会社とはなるものの、その運営次第では、政府出資分も相当に残り、大規模な財政支援が引き続き継続し得る枠組みだからである。 道路系3公団や本四連絡橋公団については、基本的に、イギリスの旧国鉄分割の際にとられたような「上下分離」方式を導入することが望ましいと考えられる。
これらの公団の高速道路や連絡橋といった施設の運営の部分(いわゆる「上」)については、可能な限り民間の経営原理を導入し、効率化やコストの削減を図るべきであると考えられる。高速道路や連絡橋という施設の公共性を勘案しても、いわゆる「上」の部分の運営に携わる具体的な組織形態としては、特殊会社の段階にとどめることなく、現行制度上の「民営化された特殊法人」の段階にまで進めることが望ましいであろう。

独立行政法人化は特殊法人改革の切り札たり得ず
また、独立行政法人化は、今回の改革を進めるうえでのいわば下敷きともなっている特殊法人等改革基本法においても、改革に際しての選択肢として明示的に挙げられている。同基本法は本年6月に成立したものであるが、法案自体は森政権時代の2000年10月に提出されたものである。そこでは、特殊法人の組織を改革する際の選択肢として、(1)廃止、(2)民営化、(3)独立行政法人化、(4)その他という四つが挙げられ、独立行政法人という形態が、国の行政事務を分離・独立させるケースのみならず、特殊法人を改革するうえでの処方箋の一つとしても用いられている。なお、本基本法成立時の国会での審議に際しては、(3)の独立行政法人という形態を、特殊法人改革のいかなるケースで用いるのかという点に関し、明確な議論が行われた形跡はみられない。しかしながら、独立行政法人とは、そもそも国の行う業務の一部分に、民間の市場規律を導入するという仕組みに過ぎない。
また、上述の基準に照らせば、「民間の主体に委ねた場合にはかならず実施されるという保証がないか、または公共的な事務・事業として独占して行わせることが必要なものであること」という点を満たしている必要がある。このようにみると、民間でできることは全て民間に任せるという、今回の特殊法人改革の趣旨に鑑みた場合、独立行政法人は、改革後の組織形態として安易に適用できるものとは考えられない。

政府系金融機関は独立行政法人化には不適当
例えば国土交通省は所管の住宅金融公庫について、去る9 月に提示した改革案において、証券化支援・融資保険業務については独立行政法人化する、とした。しかしながら、これらの業務は本来は民間によっても担い得るものであり、住宅金融公庫は市場の育成期において、大きな推進力となることを期待されているに過ぎない。よってこれは、独立行政法人化の条件のうちの、「民間の主体に委ねた場合にはかならず実施されるという保証がないか、または公共的な事務・事業として独占して行わせることが必要なものであること」という点を明らかに満たさないことになる。改革後の住宅金融公庫が証券化市場業務を手がけることによって、もし狙い通りに住宅ローン担保債券市場が成長したとしても、それが国の全面的な支援を背景とする独立行政法人として運営されるものであれば、他の民間証券化業者は最初から競争上不利な条件下に立たされることになり、そこでもまた民業圧迫状態が生じることになりかねない。

また、独立行政法人という類型自体、国が全面的に資金面の面倒をみることを前提としている制度であるため、政府系金融機関を自立的な経営基盤を確保できる新たな形態に改革していく際のツールとして採用することにはなじまない。実際、アメリカのGSE(政府支援企業)であるファニーメイやフレディマックは、わが国の制度でいえば「民営化された特殊法人」に当たる組織形態をとっているが、その財務内容の水準の高さや暗黙の政府保証を利用して、自らが資本市場から直接資金調達を行い、所要資金の全額を賄っている。ドイツの復興金融公庫やEUの欧州投資銀行は、ドイツおよびEU各国政府の100%出資による政府系金融機関であり、わが国であれば完全な特殊法人か、100%政府所有の特殊会社といったところであるが、その資金調達に際しては、政府保証付き、および政府保証なしの債券発行が主力であり、政府の直接的な財政負担は最小限に抑えられている。わが国としても、政府系金融機関を改革するに当たっては、政府の財政的な直接支援を最初から後ろ盾とするのではなく、その財務運営の健全性を基盤として、低利で自ら資金調達を行うように極力努めることが望ましい。この意味でも、独立行政法人は、改革に用いるツールとしては不適当である。

住宅金融公庫の証券化支援・融資保険業務については、当初は特殊会社の形態から始め、3年ないし5 年といった一定期間の経過後は「民営化された特殊法人」に移行する計画とすることが望ましい。資金調達も、特殊会社の段階から、可能な限り自力で市場から行う仕組みを採用すべきである。さらに、市場の成熟後は、証券化や融資保険を担う他の民間主体との競争条件の平等化を図るためにも、「民営化された特殊法人」の段階にとどめておくことなく、設立根拠法を廃止し、完全な民営化を図る必要があろう。以上のような考え方は、他の政府系金融機関の改革の方向性を考える際にも、基本的に踏襲できると考えられる。

独立行政法人化はあくまで、後ろ向きな特殊法人改革の受け皿
独立行政法人を、特殊法人改革のツールとして用いることができるとすれば、それは極めて後ろ向きな問題を抱える特殊法人の事業の受け皿としてであろう。例えば道路系3公団が担っている業務のうち、高速道路等の施設の維持・管理の部分(いわゆる「下」)の受け皿として、この独立行政法人を用いることが考えられる。この業務については、まず、改革に向けての前提条件を確定させるという意味で、計画中の高速道路建設を今後どうするかを政治判断することが不可欠であるが、すでに建設した部分の債務の償還だけでも今後も相当な財政負担が必要であり、民営化方向での改革には馴染みにくいと考えられる。しかし、安全性の確保等の面でその業務の公共性が極めて高いため、今後は、一定の効率化を図りつつも、最終的には国が責任を持つという独立行政法人化が有力な選択肢となり得よう。

このようにみると、特殊法人改革を真に成功させるためには、単に組織を何らかの形で改め、看板をかけかえればよいというものでは決してない。とにかく独立行政法人化すればよいとか、特殊会社化すればよいというものではないのである。また、今年に入って、民営化の面での先進国であるニュージーランドやイギリスにおいて、事業の本質や実態を省みずに行き過ぎた完全民営化を強行したために、結果的に再国有化という反動を招いた例が散見されていることを踏まえれば、いかなる特殊法人も即座に完全民営化すればよい、というものでもないだろう。改革を、実効性を伴うものとして成功させるためには、各特殊法人がこれまで担ってきた事業ごとに、その将来的な必要性や具体的な運営形態を検討し、それに沿った組織形態を考えるのが本筋であろう。

4.今後の検討の進め方-抜本的な改革を断行するために

小泉政権の特殊法人改革は、今後大きなヤマ場を迎える。改革の構図はさながら、首相を頂点とする行政改革推進本部という「改革推進派」対、各特殊法人を所管する各府省および一部の族議員という「抵抗勢力」という見取り図になっている。確かに現行制度上では、実際の特殊法人の改革にかかわる事務は、最終的には所管する各府省の手に委ねざるを得ず、行政改革推進本部が各府省の頭越しで改革の中身を決定し実行することは法的にできない。もちろん、これはわが国特有の制度ではなく、欧米主要国においても、過去、この手の行政改革を実行する際には同様の軋轢が生じている。

改革推進派の最大の味方は国民の世論
しかし重要なことは、改革に成功した国々では、政権の長が強固なリーダーシップを発揮したのみならず、国民の世論が改革を後押しする強い推進力の役割を果たしたということである。わが国においても、今、その最大の味方は、国民の世論なのである。一般的な国民の大勢は今、わが国経済が危機的な状況に瀕していることを目の当たりにして、無駄な財政支出を止め、事務の効率化を図り、民業の活性化につなげる行財政システムの抜本的な改革を望んでいる。特殊法人改革は、その最たるものといえる。
しかし、道路系公団や住宅金融公庫にかかる議論をみれば明らかなように、一般的な国民の世論が、各特殊法人の抱える具体的な問題点について十分に消化し、改革案のオプションを十分に検討するにはそれなりの時間を必要とする。同時並行的に多くの特殊法人の改革に関する結論を出そうとすることは、抵抗勢力の封じ込めには相応の効果はあっても、検討の内容が拙速に終わりかねず、諸刃の剣ともなりかねない。また、実質的な検討対象が一部の特殊法人にとどまり、他の特殊法人が今回も手つかずの状態で終わってしまえば、改革の実効性は著しく低いものに終わってしまう。これでは、まさに抵抗勢力側の思うつぼであろう。

残る全特殊法人を3グループに分け、各3カ月程度ずつかけて抜本的な改革案の検討を
改革の着地点を吟味するためには、いかに急いでも相応の時間は必要とする。
こうした意味で、小泉首相が掲げた11 月中、ないしは年内という期限に過度にとらわれる必要はない。77の全特殊法人について、今後の改革にかかる意思決定の具体的スケジュールを明確にしたうえで、スピーディーに検討を進めることが極めて重要である。
具体的には、全特殊法人を、検討の時期別に複数のグループに分け、短期間にもれなく集中的に検討するようにしてはどうか。例えば、冒頭で述べた7特殊法人は第1グループとして今年末までに抜本的な見直しの結論を出すこととし、残る70 の特殊法人は、同じ分野のものはまとめて検討することにより見直し作業の効率性を高めるという趣旨で、(1)政府系金融機関、(2)公団(公共事業関係の、比較的大規模な特殊法人が多い)、(3)事業団(公共事業以外の経済・社会政策を担う、比較的小規模な特殊法人が多い)をそれぞれ中心とする三つのグループに分ける。そして各グループに3カ月程度ずつかけて、全特殊法人をもれなく対象に抜本的な改革案を検討し、まず、国民に提示するのである。そうすれば、国民の側も、各特殊法人の抱える問題の本質がどこにあるのかについて、かなりの程度評価・判断することが可能になる。こうした形で、個別の特殊法人の抜本的な改革に向けての具体的な世論が高まれば、改革断行のための強力な推進力となることが期待できよう。
また、各グループの3カ月間という検討期間が終了する時点では、対象となる各特殊法人の抜本的な見直しの方策について、もれなく閣議決定を行い、各所管府省に対しては、この閣議決定に従って、改革実施のための具体的な事務作業を進めさせる、という段取りにすれば、強固な政治的リーダーシップを発揮することにより、各府省側の抵抗を阻むことも可能になる。なお、具体的な検討をこのように進めれば、今回の改革の下敷きとなっている特殊法人等改革基本法で定められた、同法の施行後1年間が目途という検討の時期に関する枠組みも、おおむね踏襲できることになろう。

特殊法人改革は、小泉政権が掲げる構造改革の成否を占う試金石である。今後は、(1)財政負担の最小化、(2)民間でできることは民間に任せる、という特殊法人改革の原点に今一度立ち返り、大胆かつ細心に、各特殊法人の改革の着地点を吟味することが求められている。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ