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Business & Economic Review 2001年06月号

【POLICY PROPOSALS】
IMT-2000が実現するユビキタス・ネットワーク社会のあり方

2001年05月25日 調査部 メディア研究センター 野村敦子


要約

近年の移動通信システムの高度化とともに、「ユビキタス・ネットワーク社会」を目指す動きが注目されるようになっている。ユビキタス・ネットワークとは、いつでも、どこでも、誰でも、ネットワークにアクセスでき、様々な情報やサービスを利用できるという環境をいう。このユビキタス・ネットワーク実現のためには、固定通信網の高度化やブロードバンド(高速・大容量)化とともに、移動通信システムや無線通信技術の高度化も不可欠である。2001年5月にわが国で、第三世代の移動通信システム「IMT- 2000」が試験サービスを開始した。 IMT-2000は、(1)一台の携帯電話端末を世界中で使用できるようにすること、(2)固定電話と同等程度の高品質な音声通話を実現すること、(3)音声だけでなくデータや画像などマルチメディアデータの送受信もできるように伝送速度を高めること、を目標に開発が進められた。IMT-2000の登場は、ユビキタス・ネットワーク社会の実現に向けた第一歩になると考えられる。 これまで携帯電話は、音声によるコミュニケーションツールとしての位置づけにあった。しかし、デジタル化を契機として、静止画やテキストなどデータ伝送の比率が徐々に高まりつつある。特に、99年2月に始まった携帯電話によるインターネット接続サービス(モバイル・インターネット)は、その手軽さ・簡便さが広く受け入れられることとなり、目覚しい勢いで普及している。

IMT-2000では一層高度なサービスが可能となり、モバイル・マルチメディアやモバイル・コマース(携帯電話を通じた電子商取引)も実現していくことが予想される。それに伴い、携帯電話端末もネットワーク接続端末として機能の高度化が図られている。ネットワークを介した情報処理が可能となるように、プログラミング言語Java対応の携帯電話端末が登場しており、今後、IMT-2000対応端末にはOS(基本ソフト)や近距離無線通信技術などが搭載されることになる見込みである。将来的に携帯電話端末は、電子財布やリモート・コントローラーとしての役割も果たすことが期待される。 IMT-2000のサービス開始を契機として、携帯電話事業者やメーカーのグローバル展開の動きも活発化することになる。携帯電話事業者がグローバル展開を進めるのは、共通の技術方式を導入する事業者を増やすことにより、(1)国際ローミング(国内で使っている携帯電話端末を海外に持っていっても使えるサービス)が可能な国・地域の範囲を拡大すること、(2)インフラ機器や端末の調達コストを低下させること、さらには(3)モバイル・インターネットなどのコンテンツやサービスの調達コストを低下させるとともにサービスの多様化を図ること、などを目的としている。

一方、メーカーにとっても、世界共通規格のIMT- 2000 が導入されることにより、ビジネスチャンスが拡大する。なおかつ、日本で先行してサービスが開始されたこともあり、ノウハウや技術を蓄積することが可能となり、これを海外市場で活用することが可能になる。 また、データ通信に適した使い勝手のいい端末作りのノウハウ面でも、家電の分野で世界をリードしており、モバイル・インターネットの普及でも先行しているわが国メーカーが優位にあるといえよう。ただし、海外の事業者・メーカーの攻勢も強まってくることは間違いない。また、移動通信システムの高度化も一層進むことになる。そのため、企業の国籍や取引関係の長短にかかわらず、国内外の様々な業種の企業と戦略的提携関係を構築していかなければならない状況におかれているのも事実である。そうしたなかでわが国企業が優位性を確保していくためには、移動通信システムの国際標準規格の策定において、引き続き主導的役割を果たしていくことが不可欠であると考えられる。

IMT-2000はユビキタス・ネットワーク社会を実現するための第一歩になるとはいえ、普及を進めていくうえでは、いくつかの課題がある。

まず、現行の料金体系では、高速データ伝送の特色 を活かしたサービスを行うと、利用料金が高額になってしまうことが挙げられる。また、ひとつの基地局内で複数のユーザーが電波を共用するため、常時高速の伝送速度を維持できるわけではない。そして、欧米ではIMT-2000の導入が遅れることになり、IMT-2000の世界共通規格としてのメリットが低減するかもしれないということも懸念されている。IMT-2000 が、わが国独自の仕様 のために海外への普及が進まなかったPDC (第二世代のデジタル携帯電話サービスの技術方式)の二の舞いにならないようにするためにも、導入で先陣を切るわが国で、着実に普及することが望まれる。
そのためには、データ通信に思い切った料金体系を導入することが必要であり、価格とコンテンツやサービスの内容とのバランスを図らなくてはならない。

また、IMT-2000の導入で、 モバイル・インターネットのユーザー数はさらに増加することになり、ネットワークに関する詳しい知識をもたない一般ユーザーの利用が多くなることから、誰もが安心してネットワークを利用できるように、ルール整備やセキュリティ対策を施す必要がある。事業者間の公正かつ有効な競争が促され、ユーザーが安価で良質なサービスを享受できるような環境整備も必要である。

IMT-2000の導入がユビキタス・ネットワーク社会の実現に向けた基盤整備になると考えられるが、その際には、新しいビジネスモデルやそれを担うベンチャービジネスの登場にばかり注目が行きがちである。わが国の経済成長を持続させていくうえでそうした点も重要ではあるが、同時に、質的に豊かな社会、国民が平等にユビキタス・ネットワークの恩恵を享受できる社会の実現も目指されるべきである。IMT-2000がアーリー・アダプターになるとみられる若者層を突破口に普及を進め、ビジネスマン向けの市場を形成していくことになれば、今度は、社会や生活に役立つようなかたちでIMT-2000の技術を活用していくことを考えるべきである。

高度化する移動通信の技術が、生活の利便性の向上や知的資産の共有、バリアフリー社会の構築のために利用され、誰もがネットワークの恩恵を享受でき、質的にも豊かな生活を実現するツールとして活用されることこそが、真の意味でのユビキタス・ネットワーク社会の実現につながるといえよう。
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