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Business & Economic Review 2002年12月号

【POLICY PROPOSALS】
新大綱にみるわが国温暖化対策の課題

2002年11月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 藤波匠


要約
  1. 今年6月、京都議定書が批准され、2008年から2012年に設定された第一約束期間の二酸化炭素(CO2)削減目標である1990年排出量比6%削減が、事実上わが国の国際公約となった。一方、これまでの取り組みでは、2010年ごろのCO2排出量が90年に比べ大幅な増加となることが予想された。そこで政府は、「地球温暖化対策推進大綱(以下、新大綱)」を策定し、取り組みの強化を図っている。新大綱の特徴は、エネルギー、とくに電力部門のCO2排出原単位の抑制と、国内の森林による吸収という2本の大きな柱に依存したシナリオとなっている点にある。

  2. エネルギー起源のCO2のなかで、今後とくに電力部門に対策が求められる。新大綱などでは、電力部門に対する基本的なエネルギー戦略として、発電量(電力需要)の抑制、発電効率の向上、原子力発電の増大を掲げている。このなかで、電力供給側の取り組みである発電効率についていえば、発電設備の更新による向上が期待されるが、電力余りが予想されるなか、新規発電所の建設は抑制されるため、大幅な改善は難しい。また、原子力発電は、発電量にして、2010年までに99 年比3割以上の増加を見込んでおり、まさに温暖化対策の切り札とされている。しかし、現実には原子力発電所の電源開発計画は、その見通しが不透明なものが多く、目標に対し大幅な未達となる可能性が高い。

  3. 電源構成の問題から、電力部門における排出量削減の目標値は、達成されない可能性が高い。対策としては、新エネルギーの活用と石炭利用の抑制が不可欠である。新エネルギーのなかでも、風力発電はとくに今後の伸びが期待されている。国の風力発電の開発目標でも、2010年度には99年比36倍の設備容量を示しているが、運転開始の遅れる原子力発電所が多いと予想されることから、さらにその3倍程度の導入を目指すことが求められる。
    新たに制定された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」で、電気事業者による自然エネルギーの利用を促す制度(RPS)が導入された。自然エネルギー拡大のためには、国が定めるRPSの電力買い取り量を、高い水準に設定すべきである。また、電源構成としては、現在の見込みよりさらに石炭火力を削減し、天然ガス火力や自然エネルギーへシフトさせることが必要であるが、それを促すためには電気事業者間の排出量取引が有効である。

  4. 新大綱では、90年比6%削減の主要な役割を、国内の森林による吸収に負わせている(3.9%分)。しかし、わが国の森林の現状は、森林の成長量に陰りがみえてきたこと、林業従事者の減少などにより、目標3.9%を下回る2.9%までしか吸収出来ないと試算されている。
    そこで林野庁では、今後10年間で1兆1,740億円以上を、追加的な森林整備のために投入すべきであるとしている。しかし、このような林野庁の判断は、森林の維持に努めることは意義のあることとしても、低い費用対効果や担い手不足などから判断して、2010年を目標とする政策としては、適切なものとはいえない。温暖化対策としての森林吸収のシナリオは、国内林吸収源活動分2.9%に海外植林分1%以上(CDMとJIの合計)とすべきである。

  5. 国内の森林管理のために追加的に巨額の費用を投入する政策が適切でない理由として、第1に国内で森林管理をするよりも、海外植林のほうが安いことが挙げられる。第2に、国内の森林管理を拡大するための論拠ともなっている森林の多面的機能の保全を考えれば、すでに国土の67%を森林に覆われるわが国で森林管理を行うよりも、無秩序な森林破壊が行われた海外への植林の方が、限界的に得られる効用が大きいことが挙げられる。また、林業への従事者が激減している現状で、労働環境の改善が十分でないまま、失業者などをいわば緊急避難的に林業へ送り込もうとしている国の政策は、森林管理の担い手不足を解消するものとはならない公算が大きい。
    わが国の森林の多面的機能は、公的費用を投じてでも維持・管理されるべきものである。しかし、森林管理を実質的に公共が担うことについては、国民の合意形成が優先されるべきである。また、森林の多面的機能保全を重要視したわが国の「森林・林業基本計画」は、元来長期的視点に立ったもので、2010年までの短期間に結果が求められる温暖化対策とは、一線を画すべきものである。

  6. 第一約束期間までに、残された時間はわずかである。原子力発電の拡大と国内林整備を中心とした現在のシナリオは、それぞれの受け持つ削減量が大きいだけに、目標未達の際の影響はあまりにも大きい。国は、過去の経緯に縛られずに、実現可能なシナリオを提示すべきである。
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