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Business & Economic Review 2002年11月号

【STUDIES】
新たな段階を迎えるブロードバンド・ビジネス

2002年10月25日 調査部 メディア研究センター 野村敦子


要約
  1. わが国では、e-Japan戦略ならびにe-Japan重点計画に基づき、ブロードバンドのインフラ整備が重点的に進められている。IT戦略本部では、現時点で高速インターネットに加入可能な世帯数は3,400万世帯、超高速インターネットに加入可能な世帯数は1,400万世帯となっており、e-Japan重点計画の目標は達成されたとしている。しかし、整備されたインフラの特徴を生かし、ユーザーのブロードバンド利用を促すようなコンテンツやサービスは不足している。その要因としては、a.ブロードバンドを活用したビジネスモデルが確立していないこと、b.ネットワークの構成がブロードバンドのコンテンツ配信に適したものとなっていないこと、などが指摘できる。そのため、IT政策についても「ラストワンマイルの整備」から、「利用の促進」へと重点を移行する必要がある。

  2. ブロードバンドのインフラ整備を第1ステージとすれば、現在はブロードバンド・ビジネスの第2ステージを迎えている。ビジネス構造も機能の分化やビジネス層の多層化・複層化が進みつつある。ブロードバンドでコンテンツ配信などのビジネス展開をするに当たっては、バックボーン回線やサーバーの増強、顧客やコンテンツ、料金などを管理するシステム、セキュリティの確保などが必要となるためである。コンテンツの収集(コンテンツ・アグリゲーション)や効率的なコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を提供する事業者、課金システムやコピープロテクトの技術を提供する事業者などが登場している。通信事業者やインターネットサービスプロバイダー(ISP)のなかには、これらの機能やサービスを総合的に提供するプラットフォーム・サービスを展開する事業者も出てきている。また、ブロードバンド・ビジネスではインフラ整備やシステム構築に多額の資金を要し、様々な機能や技術革新への対応も必要となるため、事業者の合従連衡も活発化している。

  3. 海外でも、ブロードバンド政策の重点分野はインフラ整備の段階から利用促進へと移りつつある。アメリカはIT先進国であるものの、ブロードバンドの利用に関してはわが国同様に発展途上にある。インターネットが普及している半面、光ファイバーの整備は遅れており、IT不況でブロードバンドのインフラやサービスを提供する事業者の経営破たんも相次いでいる。こうした状況に議会や産業界、有識者などは危機感を強め、政府に対してブロードバンド政策の立案と規制の排除を要請している。一方、韓国はブロードバンド先進国として位置付けられている。政府はインフラ整備だけでなく、企業や家庭へのIT導入、IT教育、ITベンチャーの育成などに注力している。しかし、韓国でもアメリカ同様にブロードバンドを活用したビジネスモデルは確立出来ていない。ブロードバンドを生かして社会的・経済的付加価値を創出するような取り組みが課題となっている。

  4. ブロードバンド・ビジネスの抱える問題のうち、ネットワークへの負荷や安定配信などインフラに起因する問題については技術的な対応により解決にめどがつきつつある。しかし、実際にブロードバンドを通じてコンテンツやサービスを提供しようという際には、様々な障害が存在している。すなわち、a.著作権をめぐる諸問題:映画やテレビ番組などを活用しようという場合、権利処理が繁雑であり、コンテンツ不正使用の危険があること、b.収入形態の問題:ブロードバンドのインフラ整備やシステム構築に多額の資金がかかる一方で、ユーザーの有料コンテンツに対する抵抗が強いなど、ビジネスとして採算確保が可能か不透明、といった問題である。ブロードバンドは放送メディアなど他の情報メディアとはビジネスモデルが異なることから、その点を考慮したビジネス展開を図る必要がある。その際のキーファクターとしては、a.ブロードバンド・インフラを活用した新たな価値の創造、b.安全かつ簡便な決済システムの構築、c.常時接続を生かしたサービスの開発・提供、などが考えられる。

  5. e-Japan戦略では、インフラ整備や市場形成は原則、民間主導で取り組むこととされている。しかし、民間だけでは解決できない障壁については、政府がそれを除去する役割を果たす必要がある。それは、インフラ整備だけではない。インフラ整備後の利用の促進と市場の形成についても政府の果たすべき役割がある。第1に、ブロードバンドでビジネスを展開しようとする企業が多数登場するような環境づくりである。それには、起業支援だけでなく、起業後の成長を促進する施策も含まれるべきである。第2に、ブロードバンドにコンテンツを流通させやすい環境づくりである。コンテンツ流通促進のために、コンテンツIDの早期実用化とデジタルコンテンツ産業の育成に重点的に取り組む必要がある。第3に、ブロードバンドの市場形成のために、ユーザーである国民がブロードバンドを積極的に利活用するような仕掛けづくりに、国が率先して取り組む必要がある。その際、利便性の向上と同時に、経済的なメリットを享受できるようにすることが有効と考えられる。諸外国の施策で、わが国でも対応可能なものは積極的に取り入れていくことも必要である。

  6. ブロードバンド市場には大きな期待がかかっている。確かに、ブロードバンドのポテンシャルは大きいが、ブロードバンドはあくまでも情報を流通させるための伝送路でしかない。これをいかに社会や経済に役立てるかは、それを利用する人間次第である。実際、ブロードバンドの加入世帯数は増えているとはいえ、その普及状況は放送や携帯電話など他の情報メディアに比べれば小規模でしかない。ブロードバンド・インフラを有効に活用できなければ、これまで構築してきたインフラは単なる「箱もの」でしかなくなってしまう。ブロードバンドでバリューチェーンを創造出来るかどうかは、ブロードバンド市場の成立、ひいてはe-Japan 戦略の成否にもつながることになる。政府もブロードバンド市場の立ち上がりの段階においては、すべてを民間任せにするのではなく、a.ブロードバンド・ベンチャーの創出、b.コンテンツ流通環境の整備、c.利用促進のためのインセンティブ策など、需要を牽引する施策を早急に講じる必要がある。
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