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Business & Economic Review 2002年11月号

【REPORT】
企業のデフレ対応の変化と家計へのインパクト

2002年10月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 小方尚子


要約
  1. 2002年前半に、外食やパソコンの値上げの発表が相次ぐなど、多くの企業が低価格戦略の転換を目指したが、成功している企業は少数派にとどまっている。足元の消費者物価指数の動きをみても、需給の改善を反映して下落幅の拡大には歯止めがかかったものの、上昇反転には程遠く、下落自体は根強く続いている。

  2. 根強い物価下落圧力の背景には、経済のグローバル化とアジア諸国の産業高度化が進むなか、わが国の産業高付加価値化の動きが停滞し、内外価格差縮小に向けた圧力が物価の下落として顕在化している現状がある。内外価格差については、食料、衣料品など、縮小が進んできている分野もあるものの、全体としてみれば、根強く存在しており、当面、物価下落圧力がかかり続けることになろう。

  3. 物価下落圧力への企業の対応を、企業のコスト構造の変化からみると、企業が低価格を実現する源泉として、a.安価な輸入品の利用による原材料・生産コストの削減、b.国内での生産コストの削減、c.物流・販売コストの削減、d.人件費の削減があげられる。このうち、輸入品の利用については根強く作用しているものの、当面その動きが減速する見込みである。また、生産コストや物流コストの削減の動きにも一服感がみられる。一方、人件費については、所定内給与の下げ幅が拡大しており、削減が本格化する動きがみられる。

  4. 人件費削減の加速は、家計に大きな影響を及ぼす。これまでは、人件費削減のスピードよりも物価下落スピードの方が速く、1998年度以降、物価の下落が家計の実質購買力を高める効果をもたらしてきた。ところが、2002年度は、人件費削減の加速で、物価下落による押し上げ効果が名目所得の減少によって相殺される見通しである。実質購買力の低下は消費にマイナスの影響を与える。とくに、景気後退局面では、物価下落と賃金下落がスパイラル的に進行する懸念がある。

  5. こうした悪循環を回避するには、新たな収益性の高い産業の育成が急務であ
    る。政府の支援、企業の努力が続いているが、新産業の育成には時間がかかり、育成努力がいつ結実するのかは不透明である。育成に向けた粘り強い支援・努力が望まれるが、同時に現実に強まる人件費削減傾向を見据えた対応が重要となっている。

  6. 家計サイドでは人件費削減傾向への対応がすでに始まっており、女性配偶者の
    収入増加が消費を支える傾向が、所得の低い勤労者世帯を中心に明確化しつつある。しかし、わが国の労働市場、社会制度、税制は、「片働き」を前提としているものが多く、共働き世帯の増加に対し、改革が必要とされる分野が多い。労働者のスキルアップの側面でも、個人の自助努力に加え、政策的支援の必要性が一段と高まっている。デフレの放置は許されず、デフレ傾向の克服に向けた金融・財政政策は重要である。しかし、現実問題として根強いデフレ傾向が続き、賃金削減の動きが強まるなかで雇用や家計の変化が加速しており、この動きを見据えた政策対応が急がれる。
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