Business & Economic Review 2003年09月号
【REPORT】
アメリカにおけるリテイラーのクレジット・カード戦略-近年の変貌とカード業界への影響
2003年08月25日 調査部 経済研究センター 岩崎薫里
要約
- アメリカの大手リテイラーは、長年にわたりクレジット・カードを、本業をサポートするツールとして活用してきた。リテイラーのカードは自社内でのみ利用可能なハウス・カードの形態をとっていることが多く、それを顧客に提供することで、顧客との結び付きの強化や、顧客情報の入手を図ってきた。
- ところが、1990年代を通じて、大手リテイラーのクレジット・カード事業を巡る環境が次第に厳しくなっていった。まず、ビザやマスターカードなどの国際ブランドを搭載した汎用カードが普及するなかで、リテイラーのハウス・カードの利用率が低下傾向をたどった。その一方で、貸し倒れコストをはじめカード事業にかかわる諸コストが増大し、カード・プログラムを所有することがリテイラーにとって重荷となってきている。
- こうした状況下、近年、大手リテイラー各社の採っている戦略としては、主に以下の2点が挙げられる。
第1に、国際ブランドとの提携を通じた、汎用カードの提供である。それによって、カードの利用率を向上させるとともに、ビザやマスターカードなどの特典プログラムへの参加などを通じて、カード・プログラムの拡充を図ってきた。
第2に、カード発行業務のサード・パーティーへのアウトソーシングである。カード・プログラムを維持したまま、ポートフォリオをサード・パーティーに売却し、発行業務もそこへ委託するため、リテイラーは、a.売却益を確保するとともに、b.顧客へのカード提供に伴うメリットを引き続き享受しつつも、c.カード発行業務にかかわるコストやリスクから解放される。近年ではアウトソーシング業務が高度化しており、アウトソーシングしたほうが自社発行よりも利点の多いケースが増加している。 - このように、リテイラーのクレジット・カード事業が近年、大きく変貌するなかで、大手小売りのSearsはさらに踏み込んで、リテイラーの枠を超えてカード事業を展開しようと試みた。ところが、リスク管理に失敗して大量の不良債権を抱え込む結果となった。高度な専門性と規模の経済を兼ね備えていなければ、クレジット・カード事業に本格的に乗り出すのは難しくなっていることが、Searsの失敗から明らかになった。
- リテイラーのカード事業を巡っては、a.ハウス・カードから汎用カードへのシフト、b.自社発行からサード・パーティー発行へのシフト、という二つの流れが今後も続くと見込まれる。とりわけ、カード事業において、専門性および規模の経済が一段と求められるようになると予想されるなかで、サード・パーティー化の流れは加速する公算が大きい。そうした状況下、カード事業は一部の金融機関にますます集中していくことになろう。
- わが国の流通業界で、アメリカにみられる二つの潮流が今後生じ得るのは、大手の一部および中小の間においてであろう。とりわけ、これまでカード・プログラムを保有してこなかった中小の流通系企業が、今後サード・パーティーの活用を通じてカードの提供に乗り出していくことが予想される。こうしたなか、わが国のカード発行会社としても、付加価値の高いクレジット・カード・プログラムを流通系企業に対して提供出来れば、収益拡大の大きなチャンスをつかむことになろう。