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【OPINION】
地方債市場の改革を急げ-大規模自治体による市場公募発行を促進し、小規模自治体向けには共同発行方式の導入を

2002年02月25日 調査部 金融・財政研究センター 河村小百合


国と地方を合わせた長期債務残高が、2002年度末には693兆円に達すると見込まれるなど、わが国の財政運営は極めて厳しい状態におかれている。こうしたなか、地方方財政のみでみても、近年はその悪化傾向が著しくなっている。地方の借入金残高は、a.地方債残高、b.公営企業債残高、c.交付税及び譲与税配付金特別会計(交付税等特別会計)借入金の和として表されるが、近年は増加の一途をたどっており、2002年度末には195兆円に達する見通しとなっている。 小泉政権が、国民の痛みを伴う構造改革を断行する方針を明言していることからすれば、わが国経済は厳しい状況がしばらく継続する可能性が高く、地方自治体にとっても、税収面の伸び悩みは避けられない。加えて、国の財政運営が地方以上に厳しいことからすれば、交付税制度等を通じた国から地方への資金移転についても、今後多くは期待できない。このように考えれば、地方財政の運営上、今後一段と地方債のウエートが高まらざるを得ない。 本稿においては、こうした問題意識に立ち、アメリカやドイツといった主要国の実例を踏まえながら、わが国の地方債市場改革の方向性を検討したい。具体的には、a.地方自治体の外部からの資金調達(すなわち地方債発行)コストをいかに節減するか、という財政運営上の視点に加え、b.わが国の債券市場全体の機能を向上させるためには、その1 セクターとしての地方債市場をいかに整備すべきか、という金融市場からの視点も踏まえつつ、望まれる政策対応について提言したい。

債券市場全体における地方債市場の位置づけ

まず、金融市場をいかに整備するかという観点から、わが国の債券市場全体における地方債の位置づけについて、諸外国と比較してみよう。 1980年代以降、金融技術革新の進展を背景に、世界的にセキュリタイゼーション(証券化)が大きく進展し、債券市場が飛躍的に発展する原動力となった。セキュリタイゼーションの本質とは、資金の借り手と貸し手とを結びつける金融仲介のメカニズムにおいて、資金の貸し手が負う様々なリスクを証券化することによって分解するとともに、流通市場で転々と流通させることを容易にしたことにある。こうしたメカニズムは、資金の調達側(借り手)と運用側(貸し手)の双方にメリットをもたらした。具体的には、調達側にとっては、財務状況が健全であり、その詳細な情報の開示に努めるなどの工夫次第では、銀行からの融資に頼るよりも低利での資金調達が可能になった。また、運用側にとっては、投資対象の証券のポートフォリオを変化させれば、投資に伴うリスクとリターンを機動的にコントロールすることができるようになった。
このようにして、主要国における金融仲介の手法は、従来の間接金融(銀行からの相対での融資)から直接金融(市場における資金調達)へシフトする傾向が強まった。これは、各国の資金調達主体のなかで通常最大のプレーヤーである国をはじめ、地方自治体等をも含めた公共部門も例外ではなかった。主要国においては、地方政府や政府関係機関といったいわゆる「準政府機関」についても、この証券化という手法を用いて財政面で中央政府からの自立を図る動き(政府関係機関の場合は換言すれば民営化)が幅広くみられてきた。 投資家の立場からすれば、地方債は、その信用度の面では国に準じる位置づけにあるため、安全性は相対的にかなり高い(=信用リスクは低い)ものの、発行ロットの面で国に劣るケースが多いため、流動性リスクはやや高く、総じてミドルリスク・ミドルリターンを期待できる債券ということになる。 ここで、主要国の債券市場の構成をみてみよう。例えばドイツの債券市場の内訳別シェア(2000年末)をみると、共同発行地方債(詳細は後述)に相当する「公共ファンドブリーフ債」が債券市場の30.2%と、公共債(その殆どは国債、35.6%)と並んで主たる位置を占めており、その他の金融債(20.4%)、特殊課題銀行債(わが国の政府系金融機関債に相当、6.9%)、抵当ファンドブリーフ債(専門銀行が発行する住宅ローン等見合いの債券、詳細後述、6.2%)がこれに続く形となっている。

他方、証券化の金融技術の面で最先端を歩んでいるアメリカでは、多種多様な債券市場が育っており、債券市場全体の内訳をみても、突出するセクターはなく、各種の債券市場のシェアが拮抗する形となるなかで、地方債は主要な一角を占めている。すなわち2000年末時点での債券市場の構成をみると、モーゲージ担保証券が20.9%、社債が19.8%、財務省証券(国債)が17.4%、マネー・マーケット商品が15.6%、政府支援企業債(ファニーメイ債やフレディマック債等)が10.9 %、地方債が9.2 %、資産担保証券が6.3%となっている こうした事実は、地方債に対する投資家の選好度合いが高いことを物語っている。これに対してわが国の債券市場をみると、その構成は国債が単独で67.5 %という圧倒的なシェアを占めるといういびつな形になっている。国債と他の債券市場とのシェアの格差は極めて大きく、社債が8.8%、地方債が8.5%、金融債が7.8%、政府保証債が7.3%という具合である。これは、わが国において、国債以外の債券市場が十分に育っていないことを意味する。 アメリカやドイツの例は、具体的な仕組みは国により大きく異なるものの、地方財政制度の運営上、地方債の発行による市場からの資金調達を積極的に進めれば、地方債市場は主要な債券市場の一つに育ち得るものであることを示している。その意味でわが国には、今後政策的に対応する余地が大きいといえよう。
アメリカの地方債制度-税制により個人保有を促進、民間保証制度も活用
次に、わが国における今後の政策対応の参考とするために、アメリカとドイツにおける地方債制度についてみてみよう。 両国はいずれも連邦制の国家であるが、金融制度創設・発展の歴史的な経緯や市場メカニズム導入の具体的な手法に対する考え方に、両国間でかなり相違があることもあって、地方自治体が市場から資金調達を行う方式は大きく異なっている。 まずアメリカについては、州のみならず小規模な自治体も含めて、自前で債券を発行して市場から資金調達をさせる、いわば「徹底的な自治体自立型」ともいえる地方債制度になっている。過去に自治体の財政運営が破綻したケースも数例あり、なかでも94 年のカリフォルニア州オレンジ郡の財政破綻は記憶に新しい。連邦破産法には地方自治体の章が独立して設けられているなど、破産法制も整備されており、投資家は各自治体の信用リスクに対して敏感になっている。 これに対して自治体側は、財務内容の健全化とその詳細な情報開示によって、低利での資金調達を目指すという、市場メカニズムに対していわば正攻法の対応をとっており、格付けを取得している自治体も少なくない。また、民間保証会社による保証制度も活用されており、2000年中でみても、全体の約4割がこの保証付きとなっている。これは、高格付けの民間金融保証会社が、地方債の元利支払い債務の期日通りの履行(タイムリー・ペイメント)を保証することにより、対象となっている地方債の信用力(格付け)を向上させるというものである。地方債への投資家サイドからみれば、自らに代わって民間金融保証会社に発行体である地方公共団体の財務状況を継続的にモニタリングしてもらえるというメリットがある。地方自治体側からすれば、保証の付与を受けるためには保証料の支払いというコストが伴うが、実際に自治体間で格付けに格差がついていることからすれば、保証の付与を受けることによって地方債の格付けレベルが上がり、発行金利を低く抑えることができれば、得られるメリットがコストを上回ると考えられている。

このように、一見すると連邦政府からはあたかも突き放されているかのような地方債制度であるが、実際には税制面での優遇制度が整えられており、個人が地方債を保有する際には大幅な免税が認められている。具体的には、地方債の利子所得は連邦所得税の対象とはならないことに加え、州・市町村レベルでも免税措置が設けられ、実質的に非課税となっているケースが多い。その結果、同国の地方債の保有者別の内訳(2001 年9月末)をみると、家計が33.9%と最大のシェアを占めており、これにミューチュアル・ファンド(31.4%)、保険会社(12.6%)、商業銀行(7.2%)等が続いている。このように、税制面での優遇策が地方債の安定的な消化に資する結果につながっていることがみてとれよう。

ドイツ-専門銀行方式による共同発行制度(ファンドブリーフ債)

他方ドイツの場合は、いわば「専門銀行方式」ともいえる地方債の共同発行方式が極めて発達している。具体的には、自治体は各々関係の深い専門銀行(その業務は自治体向け融資等に特化)から融資を受けることができるが、専門銀行は、自治体への複数の融資債権をまとめたものを見合いに債券を発行し(=地方債の共同発行に相当)、市場から融資の原資を調達するというものである。これがいわゆる「ファンドブリーフ債」であるが、ドイツに端を発するこの枠組みは、近年、欧州の周辺国にも広く拡大しており、ドイツの債券市場のみならず欧州の債券市場において主要な位置を占めるに至っている。 ファンドブリーフ債には、地方自治体をはじめとする公共セクターへの融資をその裏付けとする「公共ファンドブリーフ債」と、主として住宅・商業用不動産ローン債権を裏付けとする「抵当ファンドブリーフ債」との2種類がある。その発行主体としては、a.民間抵当銀行、b.民間船舶抵当銀行、c.公法上の金融機関の3種類があるが、それらの業務内容に差はない。いずれも融資の面では、自治体をはじめとする公共部門向けと住宅・不動産向けに特化しているが、この2種類の業務のウエートはほぼ半々である。また、資金調達面では、これらの融資債権を見合いに、公共ファンドブリーフ債と抵当ファンドブリーフ債の双方を発行している。なお、a.とb.は純粋な民間銀行であるが、ランデスバンクと称されるc.は、関係の深い州政府と傘下の貯蓄銀行の折半で出資されているケースが多く、わが国の自治体と関係の深い地域金融機関に通じる面もある。ただし、その発行するファンドブリーフ債には、出資元である州政府の明示的な保証が付されるため、民間抵当銀行との競争上不公平であるとの批判が高まり、また、EUの競争ルールにも抵触するため、EU委員会とドイツ政府との間で、ランデスバンクの制度改革に関する交渉が行われた。その結果、州政府による保証は、2005年7月に廃止することがすでに決定されている。 ドイツの自治体の債務構成(2000年末)をみると、自治体が直接債券(満期5年程度の中期債が主)を発行するケースもあるものの、そのシェアは15.1%と低く、全体の83%は、公共ファンドブリーフ債の発行による市場からの資金調達を原資とする、民間抵当銀行やランデスバンクからの借り入れで占められている。このように、公共ファンドブリーフ債は、各地方自治体と関係の深い金融機関に、各自治体への融資債権を見合いとする債券の発行を認める制度であり、実際には、財政規模が相対的に小さいため、単独での債券発行はコスト高である自治体の地方債を共同発行する役割を果たしていると評価できる。

ドイツ抵当銀行協会の推計によるファンドブリーフ債の保有者別内訳をみると、国内の保険会社(約3割)や投資ファンド(1割強)といった機関投資家に加え、銀行(2割強)や個人(1割強)も主力の一角を占めるなど、各主体間でバランスのとれた構成となっているとみられている。また外国人投資家のシェアも近年上昇し、直近では全体の約4分の1に達していると推定されているなど、ファンドブリーフ債が幅広い投資家の支持を集めていることがみてとれる。ちなみに、わが国の地方債の保有者構成(2001 年6 月末)をみると、保険・年金基金(39.6%)と郵便貯金(16.9%)を合わせたシェアが全体の過半に達するなど、政府部門を中心とする郵貯・年金等の制度的な保有に支えられており、ドイツの実情とはかなり対照的である。 また、ドイツのファンドブリーフ債の場合には、その信用度の高さを背景に、中央銀行であるECB(欧州中央銀行)が短期金融市場におけるオペレーションの対象玉としても採用しているほか、決済システムの担保としても用いることができるため、金融機関による保有を促す一因となっている。こうした結果、自治体側にとっては、低利での資金調達が可能になるというメリットがもたらされている。 公共ファンドブリーフ債の場合について、その信用力の高さがいかなる制度運営によって担保されているのかをやや詳しくみてみよう。第1には、民間抵当銀行やランデスバンクの業務分野は、あくまで相対的にリスクの低いa.公共部門向け貸付、b.不動産向け貸付、c.ファンドブリーフ債発行の三つに厳格に限定されていることが挙げられる。加えて金融当局による監督の面でも、民間抵当銀行やランデスバンクに対する監督の実際のレベルは、他の商業銀行に対するのよりも格段に厳しいものになっている。このほか、ファンドブリーフ債の投資家(債権者)には、債務者である抵当銀行等が万一債務不履行に陥った場合、その見合いの資産(公共ファンドブリーフ債の場合は、見合いの自治体向け融資債権)から最優先で弁済を受ける権利(第一抵当権)が保証されている。なお、公共ファンドブリーフ債発行の見合いとなる自治体向け融資債権の安全性を投資家が判断する際には、連邦国家であるドイツの財政調整制度(州や市町村の間で税収の不均衡が生じた場合には、一定の限度額まで水平的に資金移転するほか、市町村が支払い不能に陥った際には州が、州が支払い不能に陥った際には連邦が、それぞれ債務を肩代わりするというもの)の存在が、その下支えとして作用している点に留意する必要がある。 なお、ファンドブリーフ債の流通市場における近年の動向をみると、公共ファンドブリーフ債を中心とする発行ロットの大型化(いわゆる「ジャンボ・ファンドブリーフ債」)やレポ市場の整備が進み、ファンドブリーフ債のイールドカーブは極めて滑らかに形成されているなど、流動性が向上している。また、投資家の具体的な選好に合わせてオーダーメードで発行する「仕組み債」も近年多種多様になっており、ファンドブリーフ債の低利での円滑な消化のために一役買っている。こうした結果、ファンドブリーフ債は、欧州各国の国債市場と並ぶ、債券市場のベンチマーク(取引の中心的な銘柄)としての地位を確立しつつある。

わが国における地方債市場改革の方向性-自治体を規模別に2グループ化

すでにみたように、金融分野における証券化の進展は揺るぎない潮流といえる。証券化技術の発達は著しく、その恩恵により、市場におけるリスクの移転は一段と容易になり、結果的に市場の効率性は向上しているものと考えられる。にもかかわらず、わが国の場合、地方自治体や特殊法人といった「準政府機関」が、財政面で中央政府から自立することをめざし、この証券化という技術を利用する取り組みは、諸外国に比較するとかなり遅れている。地方債市場は、債券市場のなかでも、市場メカニズムに対応した改革が最も遅れているセクターの一つであろう。 また、わが国の財政システム運営上の環境変化が著しいという事情もある。2001年4月には、財政投融資制度の抜本的な改革が実施に移された。わが国の場合、地方財政制度、そのなかでもとりわけ地方債制度は、その資金源の5割弱を政府資金(財政融資、郵便貯金、簡易保険の各資金)に依存している。すなわち、2001 年度における地方債計画の資金源別のシェアをみると、財政融資資金が31.4 %、郵便貯金資金が6.1 %、簡易保険資金が9.9 %を占めている。これに、財政投融資機関(財投機関)の一つである公営企業金融公庫資金の分(同11.9 %)を合わせると、その依存度は実に59.3 %に達する。これらはいずれも財政投融資制度を通じた資金の流れである。財投改革初年度の本年度は、激変を回避するため様々な経過措置が講じられてはいるものの、今後年月の経過とともに、財投制度を通じる資金の流れの変化の影響が、じわじわと地方債の分野にも及ぶものと考えられ、地方自治体も、今後、市場からの資金調達のシェアを増やして行かざるを得ない方向にある。こうした流れは、2000年4月に施行された地方分権一括法の掲げる精神とも基本的に一致するものといえよう。 こうした状況下において、わが国の地方債市場、および地方債制度をいかなる方向で改革していくべきであろうか。 ここで問題になるのは、実際のわが国の地方自治体の財政力や、その健全性の度合いが千差万別であり、各自治体の実際の財政運営をめぐっては、いかに地方分権時代とはいえ、地域住民の生活のシビルミニマムを、最終的には国が保証せざるを得ない面もあるということである。こうした点は、地方債市場に市場メカニズムを導入することとは、本質的に相容れないものであり、そうした意味で政策運営上の工夫が必要になってくると考えられる。

わが国の場合、これまでに地方債の市場公募方式での発行実績のある自治体は、東京都をはじめ、ごく限定されている。今後については、a.これらの自治体をはじめとする、相対的に財政規模が大きく、国からの自立度の高い都道府県や政令指定都市と、b.それ以外の小規模な自治体の2 グループとに分けて、政策対応を講じることが望ましいと考えられる。 具体的には、a.のグループについては、アメリカの制度を参考にしつつ、市場メカニズムを活用した地方債発行による資金調達を、できるだけ促す方式に変えていくべきであろう。前述の地方分権一括法においては、地方債の発行方式について、現行の国による許可方式から、2006年には事前協議方式に改めることが盛り込まれている。これをさらに1歩進めて、現行制度上では、地方債の発行条件が見かけ上全国一律となっている統一条件交渉方式を、段階的に改め、各自治体の財政運営上の努力により低利での調達を促すという方向を目指すべきであろう。その際には、アメリカで幅広く利用されている保証方式を活用することも一考に値しよう。また、このグループの自治体が縁故債を発行する際には、将来的には、欧米主要国でみられるような、相対で発行する投資家のニーズに合わせた仕組み債を発行し、資金調達コストの節減に努めることが望ましいと考えられる。 次にb.のグループに属する自治体であるが、こちらはa.に比較して国が支援すべき度合いが高い先であると考えられるが、基本的には、可能な限り自立的な資金調達を促す方向の政策運営を行うことが望まれる。このグループの自治体の財政規模は相対的に小さいため、a.のグループのような、市場公募方式での地方債の発行を拡大することは事実上難しく、共同発行方式の導入を真剣に検討する余地があると考えられる。 そこで参考になるのがドイツのファンドブリーフ債制度という、専門銀行方式による共同発行制度であろう。ただし、わが国の場合、各自治体にはそれぞれ、密接な関係を有する地域金融機関が存在するものの、金融制度上の歴史的な沿革や近年の実態からすれば、ドイツの民間抵当銀行のように、業務範囲を厳しく限定して専門銀行化することは事実上難しい。そこで考えられるのが、現在財投機関として主に地方公営企業や公営公社向けの地方債を引き受けている、公営企業金融公庫の活用である。同公庫を、小規模な自治体向けの資金調達に特化する機関に改編し、地方債の共同発行業務を担わせてはどうか。同公庫は、小泉政権下で、その決着が2002年入り後に先送りされた政府系金融機関改革のなかで、事実上検討の対象外となっている模様であるが、国の財政運営がこれだけ厳しい以上、特殊法人の一つとして、他の政府系金融機関と同じく改革の必要性があることは論をまたない。債券発行の枠組みや当局による監督の面等でドイツにおける制度運営を参考にしつつ、地方債の共同発行を担わせることにすれば、公営企業金融公庫を、国の出資比率を段階的に引き下げて民営化方向で改組し、かつその資金調達面でも、現行のように、その全額を政府保証債の発行によるのではなく、見合いとなる自治体に対する融資債権の安全性をベースとする、自前での債券発行を主力に据えることも可能となろう。

三つのリスク・ファクターと望まれる対応

98年秋には、金融機関の破綻や地方財政の悪化を契機に、地方債の中でも銘柄間での利回り格差が急激に拡大し、「地方債の危機」と呼ばれる事態に至ったことは記憶に新しい。現在地方債市場は小康状態にあるが、今後についてはいくつかのリスク・ファクターが顕現化することも考えられる。 その最大のものは、国債市場における利回りの上昇であろう。債券市場の利回りは通常どの国においても、国債市場の利回りを核として形成されている。これは、国債が、債券の中で、信用度の面および流動性の面のいずれにおいても、最もリスクが低いと一般には考えられているためで、地方債をはじめとする他の債券の利回りは、通常リスク・フリーの国債の利回りに、各々の信用リスクや流動性リスクを上乗せする形で決定される。わが国は、これほどの巨大な債務を抱えつつも、あたかも薄氷を踏むがごとき均衡状態がかろうじて維持されており、国債金利は目下のところは低水準で推移している。しかしながら、民間格付け会社から日本国債に対する格下げの動きが相次ぐなど、先行きは決して予断を許さない状況にある。今後、万一国債利回りが上昇に転じた場合、信用面と流動性の面でリスクが相対的に高い地方債の場合、国債以上の振幅でその利回りが急上昇するおそれがある。

リスク・ファクターの第2は、財投改革の影響が今後じわじわと現れ、郵貯等による地方債の引き受け余力が著しく低下するケースである。郵貯という巨大な公的金融機関の必要性については別途議論する必要があるが、現時点では、地方債のみならず、国債についてもその安定消化のために大きな役割を果たしているのが事実である。国債については、こうした事態も想定してか、郵政事業の民営化に前向きな小泉政権の下で、個人向けの貯蓄国債を、2002年度スタートを目標に発行することが決定されている。これは、現在の定額郵便貯金に極めて近い商品性を有するものであり、今後の財投改革の進展に伴い、個人貯蓄のうち従来郵便貯金に向かっていた分を、徐々に国債の直接保有にシフトするように促すうえで、有効なツールとなる可能性がある。しかし、地方債の分野においては、「住民参加型ミニ市場公募債」(2002年度発行規模200億円)制度の創設が公表されている程度にとどまり、こうした財投改革の影響への具体的な対応策は、まだ講じられてはいないように見受けられる。 このほか、ペイオフ解禁により、自治体と関係の深い地域金融機関の経営に深刻な影響が出るようなケースも、地方債を発行する自治体にとっては一つのリスク・ファクターとなり得よう。 98年秋の経験が物語っているように、市場メカニズム導入への対応が不十分であると、何らかのショックが発生した場合、地方債制度全体に予期せぬ大きな影響が及ぶ可能性が高い。上述のような市場の波乱要因が現実のものとなる前の今の時点で、想定されるマイナス影響を最小限にくい止めるべく、地方債市場の制度基盤を盤石なものとするため、改革を着実に進める必要があろう。財政規模の大きい自治体に対しては、市場メカニズムを可能な限り導入しつつ、地方債発行による市場からの資金調達を促す一方で、小規模な自治体に関しては、現在の公営企業金融公庫を利用した共同発行方式を導入し、やはり可能な限り市場からの資金調達に努める方式に改めることが望まれる。
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