要約
- 2002年のサラリーマン世帯一世帯当たりの消費支出は、5年連続の減少となった。もっとも、消費性向の上昇により、可処分所得の落ち込みの割には、消費支出は底堅く推移したとみることが出来る。
(1)とくに50歳代以上の世帯では消費性向の上昇幅が大きく、可処分所得が大幅に減少したにもかかわらず、消費支出のマイナスは平均以下にとどまった。
所得減少の背景には、年功制から成果主義に基づく賃金体系への変更に伴い、年齢が高い層ほど賃金引き下げ幅が拡大していることが指摘出来る。しかし、これらの世代では、金融資産が多く、住宅ローン負担や子供の養育費負担が軽減される人生サイクルに入るため、貯蓄に回す割合を減らして、消費水準を維持する世帯が多いと考えられる。
(2)30歳代でも、2002年には消費性向が上昇し、消費支出の減少幅は▲0.5%と最も小さかった。この世代の消費性向は、90年代に低下し続けたが、足元で上昇傾向にある。
この背景には、住宅取得増加の影響が指摘出来る。住宅取得が消費に与える影響には、a.家具などの関連消費の拡大と、b.住宅ローン負担による消費の抑制の二面があるが、30歳代の住宅購入世帯が増えるなか、前者のプラス効果が強まっていると判断される。
(3)一方、40歳代では、2002年に消費性向が低下し、消費支出は▲1.9%と平均以上に落ち込んだ。この世代は、基本的に90年代を通じた消費性向の低迷が足元でも続いている。
40歳代は、住宅ローン世帯の割合が最も高く、返済負担が消費活動の重石となっている。ローン世帯の割合は、近年緩やかな上昇にとどまっており、住宅取得に伴う消費下支え効果よりも消費抑制傾向が大きく表れたものと判断される。しかも、教育費などの負担が重い世代であるだけに、金融資産も伸び悩むなか、消費抑制傾向が持続している。
(4)29歳以下の世帯でも、2002年には消費性向が低下した。年金不安を始めとする先行き不透明感を背景として、消費を抑制する傾向が出てきた可能性がある。 - 2003年を展望すると、50歳代以上の世帯や住宅関連消費の堅調が見込まれる30歳代を中心に、消費性向が上昇し、引き続き消費の下支え役を果たす見通しである。しかし、雇用・所得環境の悪化が続くなか、消費動向は基本的には厳しいとみる必要がある。
今後中期的にみると、個人消費の着実な拡大を図っていくことが、持続的成長の実現にとって不可欠である。それを厳しい所得環境という制約の下で達成するためには、消費性向を引き上げることの重要性を改めて認識した以下の取り組みが重要となる。
a.企業による、豊かな金融資産を持つ50歳代以上世帯の購買意欲の一層の喚起
b.既存分を含めた住宅ローン利子控除、中古住宅の流通市場整備など、消費性向の低下が顕著な40歳代世帯を中心とする層への支援策
c.さらに、持続可能な年金制度の構築など、消費不振をもたらしている先行き不透明感払拭への取り組み