要約
- 消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2001~2002年にかけて1%近い下落が続いた後、2003年入り以降、徐々にマイナス幅が縮小。この要因は以下の2点。
a.デフレ・ギャップの縮小…1990年代末からの物価下落の要因として大きかったのはデフレ・ギャップの拡大。しかし、2003年後半以降景気回復が明確化することでデフレ・ギャップが急速に縮小し、物価下落を緩和させる方向に作用。
b.輸入浸透度の頭打ち…中国をはじめとしたアジア諸国から安価な製品が急激に流入してきたこともデフレの要因として無視できず、その動きを反映して輸入浸透度が急ピッチで上昇。しかし、この点に関しても2003年以降輸入浸透度の上昇に歯止めがかかっており、安価な製品輸入が国内価格体系を押し下げる動きが一巡しつつあることを示唆。 - 労働集約分野におけるアジア諸国との生産コストの格差が縮小し、輸入浸透度の上昇がデフレ圧力として作用した状況が一段落するなか、デフレ・ギャップがいつ解消するかが、デフレ脱却の時期を探る際の重要なメルクマールに。
そこで、一定の前提(潜在成長率:1.5%、実質成長率:2.5%)のもとでGDPギャップがゼロになる時期を試算すると、2005年1~3月期に。この面から判断する限り、2005年中にはとりあえずデフレから脱却するめどが立つ。 - 2005年中にデフレから脱出できる展望が開けてきたものの、以下の理由からデフレ脱却後も基本的にはディス・インフレ基調が続く公算。
a.生産性上昇が原材料コスト高を吸収
b.名目賃金低迷がサービス物価を下押し - わが国における長期金利と名目成長率の推移をみると、90年代のバブル崩壊後の超低利局面を別として、80年代の「正常時」には、金利が2~3年のラグを伴って成長率の動きに収束する傾向。
デフレ脱却後も当分の間は「ディス・インフレ」状態が定着することが予想されるもと、景気回復が持続した場合でも、数年先までの名目GDPの安定的な成長率はせいぜい2%強にとどまるとみられる。
名目成長率との間の過去の関係を前提にすれば、長期金利は2004年度中1%台後半で推移し、2005年度以降1~2年かけて2%台が定着するというゆっくりした上昇にとどまる見通し。 - 問題はこうしたポスト・デフレ期における物価・金利状況についてのコンセンサスができていないことが投資家心理を不安にさせていることにあり、一定のコンセンサスが形成されれば量的緩和を解除しても大きな混乱は生じないはず。
量的緩和の解除が遅れることの副作用よりも急いで解除することによるリスクの方が大きい点を念頭におけば、2004年度中は量的緩和を継続し、その後も“移行期政策”を導入することで、解除までに十分な時間的余裕を設けるべき。
景気が予想外に好調を示し、デフレ脱却の展望が見え始めた現在、金融市場の無用の混乱を避けるためには、今から金融政策正常化に向けたシナリオについて十分に議論し、コンセンサスを形成していく必要。