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Business & Economic Review 2004年07月号

【STUDIES】
「人件費の変動費化」が変える消費パターン-所得・雇用環境からみた消費拡大の可能性

2004年06月25日 調査部 経済研究センター 山田久


要約
  1. わが国の失業率はバブル崩壊後、上昇トレンドをたどってきたが、2003年後半以降緩やかに水準を下げる方向。
    この背景には労働分配率が低下しはじめたことがあるが、その理由は以下の2点。
    a.生産・物流プロセスの効率化に加え、輸出増を主因に売り上げが回復するのに伴い付加価値額が増え始めたこと。
    b.非正規社員比率の引き上げ、成果主義賃金の導入により人件費の削減が進展したこと。

  2. 今後を展望しても、景気回復の持続が予想されるなか、労働分配率の低下に伴って雇用情勢も改善基調を続ける見通し。
    ただし、以下の理由から、失業率が4 %前半以下に低下していくのは困難な状況。
    a.企業の求める人材像が高度化・専門化するなか、構造的・摩擦的失業率は4 %強。
    b.激化する国際競争を勝ち抜くための生産性引き上げ要請の強まり、様々な不確実性が残存するもとでのリスク回避志向の強まりの結果、企業の雇用増加スタンスに慎重さが残る。
    c.新規サービス産業が雇用を大きく吸収していく可能性も当面小さい。

  3. 労働分配率の引き下げに向けて、企業が人件費を抑制するために講じてきたa.非正規雇用シェアの引き上げ、b.成果主義賃金の導入という手法は、人件費の「変動費化」を進める要因に。
    すなわち、解雇規制の緩い非正規雇用の増加は、景気変動に伴う雇用量の調整スピードを速めることに。また、成果主義賃金の導入により、企業は基本給を削減する一方、賞与で報いる方向。

  4. 今年の賞与は相応の伸びが予想されるなか、個人消費を押し上げる効果が期待される。もっとも、その効果は、大手企業の賞与増額がイメージさせるほど強いものにはならない公算。
    さらに、同じ所得増加にしても、賞与などの「一時所得」の場合は基本給など「安定所得」の場合にくらべて消費押し上げ効果は「局地的」かつ「一時的」になる傾向。

  5. 以上のようにみてくれば、今夏のボーナス増を受けてデジタル家電が売れ、デフレーターの大幅低下も重なって、夏場の実質個人消費は好調な数字となる可能性。ただし、それは一時所得の増加に伴う局地的な消費増の結果であり、何らかの外的ショックの発生で一転して下振れする可能性を秘めている。それだけに、量的緩和の解除や個人向け増税に当たっては慎重な姿勢が求められる。
    消費の安定的かつ全般的な回復を実現するには、やはり所得・雇用環境が安定的・持続的に改善していくことが不可欠。そのためには、雇用・所得が景気の遅行指標であることを勘案すれば、まずもって景気回復を持続させることが大前提。その意味で、知識資本の蓄積支援、規制改革・競争政策等を通じて、一段の産業活性化を推進することが必要。
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