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Business & Economic Review 2009年12月号

【特集1 財政緊縮下における自治体の公営企業改革】
自治体の公営企業の現状と問題点

2009年11月25日 河村小百合


要約

  1. 地方自治体は、住民に行政サービス等を供給するに当たり、その事業の性質等に応じて、①普通会計、②公営企業会計、③外郭団体(公社、第三セクター等)の枠組みを使い分けている。このうち、公営企業会計とは、上下水道、病院、交通事業等、個々のサービス等に対する住民からの対価の支払いを伴う事業を運営する際に用いる形態である。このため、公営企業とは、本来、料金収入等で経営が収支相償することが前提となっている。
  2. 2007年に制定された地方財政健全化法に基づいて、フロー・ストックの両面にわたる四つの財政指標によって、各自治体の財政状態を評価し、必要に応じて早期是正措置を発動する仕組みが導入された。公営企業会計についても、これらの指標のなかに算入されるほか、各公営企業自身も、資金不足比率によって、必要に応じ、経営健全化のための措置がとられることになった。
  3. 総務省の地方公営企業決算状況調査のデータに基づき、まず、公営企業全体のマクロの視点からみると、事業別の不良債務(流動負債-流動資産、資金繰りが不可能になっていることを示す)は、交通事業が最も多く、全国合計で1,751億円、次いで病院事業の1,186億円、下水道の346億円となっている。累積欠損金も交通事業が最大で、全国合計で2.2兆円、次いで病院の2兆円となっている。下水道は2,000億円程度と相対的に少ないが、これは、財政制度上、毎年度2兆円が普通会計等から繰り入れられていることが影響しているものとみられる。
  4. 次にミクロの視点から、各公営企業の経営状況を分析すると、公営企業の事業は、本来、収支相償が前提でありながら、実際には、本業の営業収支が黒字となっている事業は全体の53%にとどまり、事業によっては、普通会計等から多額の繰入金が毎年度投入されていたり、それにもかかわらず、多額の繰越欠損金が積みあがっているケースが少なくない。
  5. そうした傾向は、病院、交通、下水道の事業について、とりわけ顕著である。総務省が公表している資金不足比率の計数によれば、経営健全化基準に該当する公営企業の数は、2007年度の公営企業総数7,448のうちの156会計と、限定的となっている。しかしながら、この資金不足比率に近い「実質資金不足比率」を交通事業や下水道事業について試算したところ、総務省公表の資金不足比率が20%を超過した会計数が、交通事業で11会計、下水道事業では3会計であったのに対して、実質資金不足比率の試算結果(事業ベース)では、交通事業で実に19事業、下水道事業で14事業が20%を超過している。これらは、経営健全化基準該当のいわば「予備軍」とも考えられよう。
  6. 公営企業が手がける事業はいずれも、住民の生活に密着したものが多く、簡単に縮小や撤退ができるものではない。半面、これを支える普通会計側の余力も年々乏しくなっている。現行制度上、全国一律の基準で設定されている、普通会計から公営企業会計への繰出し基準について、「選択と集中」の発想に立ち、各地域の住民が決定する方式に改め、改革につなげることも可能である。各自治体において、公営企業の事業を今後も持続可能なものとして再生するため、近隣の自治体との効率的な連携や、民間セクターの活用等も選択肢に含めた広い視野に立ち、事業の抜本的な再構築と再生を進めることが望まれる。
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