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Business & Economic Review 2009年11月号

【STUDIES】
会計基準の共通化をめぐる世界的な動向とわが国の対応

2009年10月25日 野村敦子



要約

  1. 会計基準とは、財務諸表を作成する際のルールであり、企業の業績や経済状態を図る共通のモノサシとして利用されている。会計基準は、それぞれの国の商慣習等により異なる。しかし、近年のビジネスや投資活動のグローバル化の進展を背景に、異なる国の企業間での財務諸表の比較可能性を高めることを目的として、会計基準の国際的な統一化が目指されるようになっている。
    まず、1973年に先進9カ国の会計士団体により、IASC(国際会計基準委員会)が設立され、IAS(国際会計基準)が開発された。2001年にIASCは、会計基準設定機関出身者を主要メンバーとする国際機関IASB(国際会計基準審会)へと発展し、IASはIFRS(国際会計基準、または国際財務報告基準)と名称を変更して引き継がれている。現在、IFRSを採用または採用を予定する国・地域は100カ国以上にのぼる。

  2. 2002年に欧州連合(EU)は、域内各国の会計基準の統一、ならびにアメリカ会計基準(US-GAAP)に対抗しうる会計基準の確立を目的として、2005年1月1日より域内企業の連結財務諸表にIFRSを強制適用することを決定した。EUによるIFRSの適用は、他の国々がIFRSを導入する呼び水ともなった。ただし、EUはIFRSの一部項目を除外(カーブアウト)しており、IASBの設定したIFRSをそのまま適用しているわけではない。また、個別財務諸表ならびに非上場企業へのIFRS適用の判断については、加盟各国の裁量に委ねられており、それぞれの国の事情によって取り扱いが異なっている。欧州委員会(EC)の報告書によれば、「IFRSの実施は困難であったが成功した」と評価されている。

  3. アメリカ証券取引委員会(SEC)は、自国基準が世界で最も厳格かつ優れているとして、アメリカ市場に上場する外国企業に対してUS-GAAPへの準拠を求めてきた。しかし、2001年のエンロン事件など不正会計問題が相次いで発生し、US-GAAPに対する信頼が大きく揺らぐこととなった。加えて、資本市場の国際間競争が激しくなるなか、ルールが詳細なために運用コストが嵩むUS-GAAPへの固執は、グローバル化を進めるアメリカ市場やアメリカ企業にとって、むしろマイナスの影響を与えるとの認識が広がってきた。
    こうした状況を背景に、2002年9月にノーウォーク合意が締結され、IASBとアメリカ財務会計基準審議会(FASB)の間で、両会計基準の共通化(コンバージェンス)に向けた取り組みが進められることとなった。さらに、2007年11月にはアメリカ市場における外国企業のIFRS使用が容認されることとなり、2008年11月にはSECによりアメリカ企業へのIFRS適用(アドプション)を視野に入れたロードマップが発表された。
    ただし、SECやFASBの意図するところは、IASBが設定した現行の基準をそのままUS-GAAPに代えて導入するというものではない。覚書(MoU)やロードマップには、IASBとFASBの共同作業のなかでより優れた新しい基準を採用する方針が示されており、アメリカの意向を反映させた新しいIFRSの設定を目指しているといえよう。

  4. わが国においても、企業活動や資本市場のグローバル化、ならびに上述した会計基準をめぐる国際的な動向を背景に、90年代以降、会計制度改革の取り組みが進められている。2007年8月には、IASBとASBJ(企業会計基準委員会)の間で東京合意が締結され、コンバージェンスへの取り組みを加速化する具体的なスケジュールが発表された。さらに、SECがロードマップを発表したことを受け、わが国でも2009年2月に金融庁が日本企業へのIFRS適用に関する日本版ロードマップ案を発表した。その内容は、①連結先行、②2010年3月期より任意適用、③2012年に強制適用の是非を判断、④3年の準備期間ののち、2015年または2016年に適用開始、などである。

  5. わが国におけるIFRS導入の検討においては、企業の対応や環境整備の在り方についてもあわせて議論を進めていく必要がある。IFRS導入で期待される効果は、①国際的な資金調達の可能性の拡大、②グループ経営の効率化、③クロスボーダー取引の円滑化、などが挙げられる。一方、先行するEUの状況を踏まえ、わが国へのIFRS導入の影響における留意点を個別企業レベルで整理すると、①財務諸表・データ等で広範な変更が必要なこと、②財務部門にとどまらず全社的に影響が及ぶこと、③経営者によるコミットメントが必要であること、などが挙げられる。また、適用に向けた課題としては、①コスト、②人材教育、③経営戦略や事業計画、組織体制等の見直し、などを指摘できよう。
    そもそも、会計情報には①利害調整機能と②情報提供機能があるが、現行のIFRSは②の要素が強い。したがって、会計制度の変更を全ての企業に対して一律に論じるのは、わが国の現状を鑑みてなじまないものと思われる。EUやアメリカなどの先行事例や環境整備の進展度合いを見ながら、導入の範囲や時期、方法等について、慎重に検討すべきといえよう。
    一方、国レベルにおいても、わが国の利益が反映されるべく、現在の事実上欧米主導によるIFRS基準設定の体制を改めるように、わが国の主体的な関与が求められよう。

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