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Place Attachment -土地や組織への愛着について考えるために 

2026年08月25日 山本尚毅


 先日、人生ではじめて家の買い物をした。

 利根川のほど近くに立つ数寄屋造りの中古住宅である。妻の実家近くで、私には縁もゆかりも思い出もない場所だった。しかし、この土地と家を取得する判を押したとたん、終の棲家になるのかもしれない、少なくとも子どもたちが大人になったときには戻ってくる場所になるのだと思うと、急に愛おしくなった。手始めに町名の由来を検索すると、調べものが芋づる式に止まらなくなり、足元の大地を巡るタイムトラベルが始まった。

 まず、2万4300年前の浅間山の巨大な山体崩壊(泥流)によって形作られた前橋台地の上にあることを知る。すぐ近くにある不自然な坂はこの台地の端部だった。かつて暴れ川だった利根川の幾度もの流路変遷、戦国時代に厩橋城の動脈として開削された風呂川の水脈、明治の近代化を支えた国内初の洋式器械製糸工場である藩営前橋製糸所、そして戦前、日本技術史の光と影を背負った中島飛行機と空襲の記憶。わずか100メートルの範囲には、2万年を超える生々しい「大地の履歴」が、目に見えない地層のように積み重なっていた。

 調べる手が止まらなかったのは、土地への理解が深まるたびに安心感とリスペクトを抱いたからである。この情動にも名称があるのではないかと思い検索すると、環境心理学や人文地理学の用語である「Place Attachment(土地への愛着。以下“PA”とする)」に行きついた。

 PA研究は、人が特定の場所に抱く絆を“人”、“プロセス”、“場所”の三次元で構造化してきた。従来の欧米中心にした心理学では「個人の心理的な快適さ」を中心に据えている。一方、私が調べ物を通じて得たのは「地史的時間の体感」による愛着であり、人知を超えた「畏怖や畏敬(Awe)」を包含する愛着であるが、PA研究ではあまり主流ではないようだ。

 他方、文化人類学では、PAは「大地に抱かれる」「大地が人間を見る」という人知を超えた視点として議論されている。昨年私が新潟県十日町市で実施した「雪を起点とした広域型地域活性化モデルの研究」(NTT東日本地域循環型ミライ研究所らと共同)では、文化人類学のフィールドワークの手法を用いながら、人間を圧倒する、厄介な存在としての「雪」を中心に置き、100人を超える地域の人々の話に耳を傾けた。雪と共に生きる中で育まれてきた網の目の通い合い、固有の知恵、そして生活文化。研究を通じて、時として単なる観光資源として消費される雪への語りを、人知を超えた自然への畏敬を含む「土地の履歴」として言語化・構造化したのだった。

 ここで重要になるのが、「風の人(よそもの)」の役割である。その土地に縛り付けられ、日々の暮らしや自然の過酷さと地続きで生きている「土の人(地域住民)」にとって、足元の履歴はあまりに当たり前の日常であり、時にただの苦痛や不自由さとして映る。そこに、流動的な視点を持った「風の人」が外部から交わることで、主客が反転する。外の目があるからこそ、人知を超えた自然への畏敬や、数万年の地史の美しさが、地域における固有の資産として初めて照らし出される。

 家を買って住み始めた今回の地域にとって、私こそ、嫁ターンをした「風の人」であり、地史を掘り起こし、厄介な利根川との闘いの履歴に畏怖を感じ、その調べ物から湧いて出た土地への愛着を寄る辺にしようとしている。これまでさまざまな業種の4つの企業に所属してきたが、所属する組織においても、私はたいてい「風の人」である。土地を調べることと同じように、創業者の願いや編まれてきた社史に思いを馳せる。そうすれば、表層では矛盾してみえるものも、奥深いところでは違った見え方がするのかもしれない。

参考文献
Altman, I. & Low, S. M. 編(1992)『Place Attachment』Plenum Press.
Bowlby, J.(1988)『A Secure Base: Clinical Applications of Attachment Theory』Routledge.
Edmondson, A. C.(1999)“Psychological safety and learning behavior in work teams” Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
Edmondson, A. C. & Lei, Z.(2014)“Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct” Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1, 23-43.
Lewicka, M.(2011)“Place attachment: How far have we come in the last 40 years?” Journal of Environmental Psychology, 31(3), 207-230.
Scannell, L. & Gifford, R.(2010)“Defining place attachment: A tripartite organizing framework” Journal of Environmental Psychology, 30(1), 1-10.
東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生看護学分野・地域ケアシステム看護学分野(2013)「“地域への愛着”という概念」。
大森純子・三森寧子・小林真朝ほか(2014)「公衆衛生看護のための“地域への愛着”の概念分析」『日本公衆衛生看護学会誌』3(1), 40-48。
田宮日奈・甲斐田直子(2020)「地域に根差した記憶の誘発が地域愛着に及ぼす影響」『環境心理学研究』。
NTT東日本・地域循環型ミライ研究所HP「雪を起点とした広域型地域活性化モデルの研究」(雪を起点とした広域型地域活性化モデルの研究|NTT東日本-地域循環型ミライ研究所 )


 本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

 ※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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