リサーチ・アイ No.2026-035 経産省「企業買収における行動指針」追加文書のポイント~買収提案を受けた対象会社取締役会におけるベストプラクティスを明確化~ 2026年07月28日 吉田剛士本年6月、経済産業省は、「企業買収における行動指針」(以下、指針)の追加文書案を公表。2023年に指針が策定されて以降、国内企業のM&A件数・金額が増加しているほか、対象企業の経営陣や取締役会の同意を得ずに行われる「同意なき買収」も一般化。一方、指針を巡って、経営者等の関係者の間では「企業価値を高める提案とは高い買収価格の提案であり、そうであれば断ることができない」といった誤解が生じているとの指摘あり。今回の追加文書は、指針自体を変更するものではなく、こうした誤解を解き、指針の本来の趣旨である経済社会にとって「望ましい買収」を促進するためのもの。具体的には、上場企業役員や買収者が指針の原則や留意点を理解できるようにするための「『企業買収における行動指針』のポイント(案)」と、対象会社の取締役・取締役会が、買収提案に係る検討、買収に応じるか否かの判断、複数の買収提案の中からの選択等を行うにあたって悩む点などを整理した「『企業買収における行動指針』Q&A(案)」を公表。今回の追加文書では、高い買収価格と企業価値向上は基本的に一致するものの、例外的にそうでない事例もあるため、その際には、対象企業の取締役会は反対することができるほか、反対したことをもって善管注意義務違反とはならない旨が明示された形。「真摯な買収提案」を受けた対象会社の取締役会における対応として、以下の2点がポイント。第1に、「真摯な検討」における多面的な検証。取締役会では、買収価格だけでなく、買収後の経営方針や過去の実績など、多角的に提案内容を精査する必要。特に、買収資金に係る多額の借入負担や、買収原資に充てるための資産切り売り等は、買収後の成長投資を阻害する恐れ。そのため、シナジー・コストの双方を勘案し、スタンド・アローン策等と比較検証のうえ、企業価値向上に資する判断を行う必要。対象会社主導で検証を行うには、平時から蓋然性の高い事業計画を作成し、スタンド・アローンの価値を把握しておくことが不可欠。第2に、定性的な価値についての十分な説明。ステークホルダーの利益毀損、コンプライアンスやサステナビリティの欠如といった定性的な価値が、将来キャッシュフロー等に影響を及ぼす場合、それらを定量化するとともに、株主に対して説明する必要あり。ただし、測定困難な定性的価値を過度に強調して、経営陣の保身のために用いるべきでないことは不変。今回の追加文書では、M&AやTOBの対象となった企業の取締役会におけるベストプラクティスを明確化。一方、根拠の乏しいTOB予告による株価の吊り上げや、アクティビストとファンドの水面下での連携など、ソフトローだけでは抑止困難な課題も存在。健全で公正なM&A市場を実現するため、当局として、金融商品取引法や会社法等のハードローの整備も必要に。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)