Economist Column No.2026-033
米国独立250周年: 格差と分断を抱えながらも発展を続ける超大国
2026年06月22日 石川智久
■米国が独立250周年
7月4日、米国は独立250周年を迎える。トランプ政権によって米国が大きく方針転換するなか、米国の近況を振り返ると同時に、今後を展望することは、世界経済を見るうえで有意義と考えられる。そこで、筆者が米国の現状と今後について考えていることを纏めたい。
■二つの自由がもたらした米国の分断
足元の米国を言い表す言葉として適当と考えられるのは、「分断」であろう。共和党と民主党、エリート層と大衆の間で考え方に大きな違いが生まれている。これを生み出したのは二つの自由といえるかもしれない。
一つが自由なマーケットである。新自由主義に基づく自由競争は経済的な勝者と敗者を生み出した。今や上位1%が全体の約3分の1の富を占めるようになっている。一方で下位50%は全体の5%程度しか保有していない。AIブームで株価が上昇するなか、この所得格差は拡大傾向にある。さて、米国独立250年を巡って多くの識者が引用するトクヴィルの名著「アメリカのデモクラシー」(1835年出版)を見ると、その序文第1ページでは、彼が米国の「境遇の平等」に驚いていることが示唆されている。現在の格差をみると、「境遇の平等」の国であった建国当初とはかなり異なる国になってしまったといえるだろう。
もう一つの自由としては、リベラルな価値観や政策運営に対する反発の広がりが指摘できる。米国ではこれまで、多様性や機会均等の確保を目的とするさまざまな施策が講じられてきた。そして、こうした取り組みは、格差是正に一定の役割を果たしてきた。米国では人種問題等に関心がある人々のことをWoke(目覚めた人々)と呼ぶが、主として彼らがリベラルな活動を熱心に行ってきた。もっとも、足元ではWokeの人々は過度に進歩主義的すぎるとの批判が強くなった。とりわけ、経済的な困難に直面する白人男性を中心にリベラルな政策に対する反発が強くなっている。つまり、低所得の白人男性にとって、一番解決すべきなのは所得格差の是正であるが、彼らからみると、ワシントンD.Cの政治家は経済格差是正に不熱心であり、その代わりマイノリティの人権擁護に熱心であるように見える。それどころか、少数民族を昇進等で優先するアファーマティブ・アクションによって、白人男性が享受すべきチャンスを譲らされていると考えている。
米国のJ.D.ヴァンス副大統領は、かつて「ヒルビリー・エレジー」という書籍を著したが、それは白人労働階級の経済的な貧困と、そうした状況をリベラルな政治家たちから救ってもらえない疎外感を綴ったものである。これら二つの自由は、かつて米国にプラスの面をもたらしたのも事実だ。しかしながら、結果として取り残された人々を生み出し、それが米国の分断を生んだといえるだろう。
■混乱しながら発展する実験国家
一般論として、内政が混乱した国は衰退するのが常識であるが、米国は依然として力強い。まず、マクロ経済はトランプ関税等にも負けずに堅調な成長を続け、2026年通年の実質GDP成長率は2%台の成長を維持するとみられる。トランプ関税が導入されなければ、3%以上の成長を遂げていてもおかしくない。日欧が1%程度の成長率で推移していることと比べると成長率は高い。また州別で一人当たりGDPをみるとワースト5が5~6.5万ドルの水準であるが、これは、時々の為替変動によって見え方が変わるとしても、総じてみればドイツやフランスと同レベルであり、日本や韓国(約3.5万ドル)よりもはるかに高い。つまり、米国で最も低所得な州であっても、一般的な先進国よりも豊かなのだ。また、AI等の最先端テクノロジーの発展も米国が主導している。軍事力も依然として世界で屈指の力を誇っている。米中対立の行方が今後の注目点であるが、中国は早晩人口減少社会に突入する一方、人口増が続いている米国は相対的に若い国であり続ける。
そして米国は、分断や混乱を抱えつつ、それを自らのパワーに変えるかもしれない。選挙の度に対立が激化するが、選挙を経ることによって政策のイノベーションを起こすことに加えて、既得権益に縛られない人材の抜擢が進むのも事実だ。シンクタンクやロビー会社の活動も依然として活発である。民主党系の「青」と共和党系の「赤」の対立は、それによって米国を磨いている面もある。米国が抱えるもう一つの自由である「表現の自由」さえ守ることができれば、米国は政治・経済・社会の様々な分野で新たなアイデアを切磋琢磨する場であり続けるだろう。さらに、各州の独自性が強いことから、米国全体としては多様性が維持され、各州で実験的な取り組みも可能となる。各州で成功した取り組みを全米展開できるほか、実績ある州知事等が大統領にチャレンジできることが米国の強みともいえる。
日本としては、米国に振り回されている面はあるものの、様々な実験をしながらイノベーションを生み出す米国が同盟国となっている状況は心強い面もある。米国を過大評価することなく、かつ過小評価もしないで、冷静に見ながら付き合っていくべきだ。確かに、ミクロでみれば分断と混乱が深刻化しているのは事実であり、簡単には解消しないだろう。しかしながら、国家全体としては実験国家・イノベーション国家であることに変わりはなく、今後も様々な面で世界をリードしていく可能性は大きい。日本としては、そのことを理解して、適切な距離感と参考にすべき点を常に考えながら、250歳を迎える米国との関係をアップデートしていく必要がある。
<参考文献>
・トクヴィル(著)、松本礼二(訳)「アメリカのデモクラシー」(全4冊) 岩波文庫(2025年)
・J.D.ヴァンス (著)、 関根光宏 (翻訳)、山田文(翻訳)「ヒルビリー・エレジー アメ
リカの繁栄から取り残された白人たち」光文社(2017年)
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