Economist Column No.2026-014
物価高の中で広がる「タイパ重視」の消費行動
2026年04月30日 小方尚子
小売業界では、「コスパ(コストパフォーマンス)重視の節約志向が消費の重石となっている」との声が多い。
物価高を受けて安い商品にシフトするコスパ重視の動きは、統計からも確認できる。総務省の「家計調査」によると、物価が上がる前までは多くの品目で単価が高い銘柄が選ばれていたが、ウクライナ戦争を機に物価が上がってからは、同じ品目でも単価が低い銘柄に消費が集中する傾向にある。これは、家計がナショナルブランドのような標準的な商品よりも、割安なプライベートブランドや値上げ率の低い商品を選んで購入していることを反映している。
家計の節約志向を受け、成長を続けてきたネット通販の利用にも陰りがみられる。ネット通販を利用する世帯の割合は頭打ちになっているほか、最近ではネット通販利用額が消費全体に占める割合も低下に転じている。物流費の高騰を受け「送料無料」が減少し、ネット通販が店舗での購入よりも割高となるケースが増えていることがその背景にある。こうした動きは世代によって異なっており、利用率がもともと低かった高齢者層ではネット通販が緩やかに普及している一方、30歳未満の若年層では利用率が低下している。
もっとも、家計はコスパ一辺倒に動いているわけではない。最近では、割高でもタイパ(タイムパフォーマンス)が良い、つまり時間節約になる消費は堅調である。
例えば、日用品では、スーパーよりもコンビニエンスストアの売上が堅調である。スーパーでは、大容量パックの販売やセール価格の適用が多く、コンビニよりコスパは良い。しかし、コンビニは、店が近場にあり買い物に行く時間が節約できるうえに、調理の手間がかかる食材よりもすぐに食べられる加工食品の取り扱いを中心としているため、スーパーよりもタイパが良いという強みを持つ。
さらに、外食と内食(ウチ食)を比べると、タイパに優れる外食のほうがファーストフードを中心に堅調である。外食は、人件費などが反映されることで、ウチ食よりも割高となるが、食材を買ってきて料理する手間を節約したい、と考える消費者には人気である。コロナ禍以降、利用が急拡大した宅配外食も、消費者のタイパ志向をつかんでおり、外食需要を押し上げている。
さらに、ネット通販の分野では、消費者間(C to C)の中古品取引において、出品の手間がかからずタイパがよい取引サービスが人気を集めている。従来の取引では、出品者が自ら売りたい商品の写真を撮ってネットに掲載し、購入希望があった商品を個別に梱包し、送付するといった手間があった。しかも、場合によっては、買い手からの値引き交渉にも出品者が対応する必要があった。しかし最近では、売りたいものをまとめて仲介業者に送りさえすれば、ネット掲載や値付けといった煩雑な作業を全て任せることができ、取引成立後に利益だけが還元されるサービスが若年層を中心に広がっている。こうしたサービスは、手続きを外注する分、手取りは減るものの、タイパを重視する出品者の急増でサービスが一時停止されるほどの人気となった。
足元では、中東情勢の悪化を受けて物価高が再燃しており、消費者の節約志向が一段と高まる可能性が高い。企業としてはタイパのような多様化する消費者ニーズを注意深く把握し、それに応えることが重要であり、そうした行動が日本全体の消費活性化につながると期待される。
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