人口減少で労働投入が伸びにくいわが国は、生成AIをビジネスの現場に定着させて生産性を引き上げられるかが経済成長の鍵になりつつある。OECDはG7を対象に、AIが今後10年の労働生産性を押し上げ得る幅を試算しており、わが国は年率0.16~0.82%ポイントとされている(注1)。ところが、総務省の調査によれば、企業における業務での生成AI利用率は中国が95.8%、米国が90.6%と高水準である一方、わが国は55.2%にとどまる(注2)。生成AIが労働生産性を押し上げる余地はあるが、その規模は普及に依存する。
■より確実な生成AIである「産業特化型生成AI」
制度改定がよくある産業では、法令やガイドライン、審議会資料といった文書が膨大な量に積み上がっていく。そうした状況において注目が集まるのが、「産業特化型生成AI」である。ここでいう「産業特化型生成AI」とは、業務で利用する資料(社内規程、仕様書、手順書、約款、ガイドライン等)をあらかじめ集めて分類し、その資料を検索し、根拠として回答する生成AIを指す。さらに、資料の改定に合わせて随時更新することで、ファクトチェックの手間と誤答リスクの引き下げを可能とする。特化型は我が国において生成AIの普及に向けた突破口となる可能性を秘めていると考えられる。
その一例として挙げられるのは、電力業界特化型生成AIである(注3)。電力業界に関連する法令や審議会資料など2万件超をデータベース化し、回答は出典にひも付け、データベースにないことは答えない設計になっている。専門的知識に基づき、誤答が少ないなど秀でた面が多く、注目を集めると予想される。
■汎用型の限界と特化型へのシフト
この1~2年、生成AIは「話し相手になってくれるチャット」から、「ビジネスの現場で使える道具」へと重心を移してきた。ただ、企業が業務に活用すれば活用するほど、誤答や解釈の誤りがもたらす損失やリスクも顕在化する。背景にあるのは、汎用型大規模言語モデル(LLM)の限界である。守備範囲が広い一方、専門知識の精度や情報の新しさには限界があり、活用の現場ではファクトチェックが不可欠になる。社会インフラ産業のように制度、規制にまつわる高い情報の信頼性が求められる領域では、この弱点が致命傷になり得る。また、ファクトチェックに割く時間が長いほど導入メリットは減少する。
特化型であれば、ビジネスに必要な情報を限定することで、学習すべきデータの範囲も明確になり、余分な回答が出力される可能性も薄れる。医療や金融、法務などで特化型が汎用型を上回る例が出ているのは、このためである。調査会社ガートナー社によれば、2027年までに小規模なタスク特化型生成AIの使用量は、汎用型LLMの少なくとも3倍に達するという(注4)。
強みのある現場のデータや手順、規制解釈、技能(いわゆる暗黙知)といった産業の知見を生成AIに移植できれば、生産性向上だけでなく、匠の技の横展開や新人育成の加速にもつながる。こうした利便性は、人手不足下の供給制約を緩める効果を持つ。
確実な成果で普及の壁を越える
もっとも、特化型はきめ細かな配慮が必要である。一次情報を集め、カテゴリごとに分類し、更新し続ける地道なコストがサービス提供側に生じる。また、企業が自社データを統合して活用する場合、厳しいセキュリティ設計も重要だ。特に暗黙知のようなコアデータの流出は、職人の引き抜き以上に被害が深刻になり得るため、万全の対策が求められる。
ビジネスにおいていかに生成AIを定着させていくかがこの先の日本経済には問われる。しっかりとした根拠を提示でき、ビジネスの効率化に直結する効果を出せる特化型から導入実績を積み上げるのが合理的だ。であるから、特化型はわが国のビジネスにおける生成AI普及の壁を突破する一つの鍵となるだろう(注5)。
(注1)Filippucci, F., Gal, P., Laengle, K., & Schief, M. [2025, June]. Macroeconomic productivity gains from Artificial Intelligence in G7 economies (OECD Artificial Intelligence Papers, No. 41). OECD. https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2025/06/macroeconomic-productivity-gains-from-artificial-intelligence-in-g7-economies_dcf91c3e/a5319ab5-en.pdf
(注2)総務省 [2025]「情報通信白書 令和7年版」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/r07.html
(注3)開発したAIベンチャー企業は、この生成AIを発表する1月27日の記者会見で、デモンストレーションを行った。筆者はこの記者会見に参加し、デモンストレーションでは、かつて新聞記者として東日本大震災後に取材した原子力損害賠償・廃炉等支援機構の成立過程を尋ね、自らの記憶とAIの出力結果を対照させた。電力関連の会社が事業を企画する際、このAIを使えばより正確かつ迅速に、アイデアを形にできると感じた。
(注4)Gartner. [2025, April 9]. Gartner Predicts by 2027, Organizations Will Use Small, Task-Specific AI Models Three Times More Than General-Purpose Large Language Models. https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-04-09-gartner-predicts-by-2027-organizations-will-use-small-task-specific-ai-models-three-times-more-than-general-purpose-large-language-models
(注5)特化型生成AIの導入を含めた生成AI政策に関する提言は、福田直之 [2025] 「生成AI と日本経済 -デジタル赤字削減と経済安全保障-
」 日本総合研究所『JRI レビュー』を参照されたい。※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。

