JRIレビュー Vol.6, No.124 生成AI と日本経済 -デジタル赤字削減と経済安全保障- 2025年05月01日 福田直之生成AIは、人間のクリエイティブな活動全般を代行する革命的なツールとして、個々人の生活や仕事のやり方を一新し、経済成長や社会発展の主要な推進力となり、ひいては国家間の競争を左右する存在となる可能性が高い。アメリカのOpenAIやGoogle、中国の百度やアリババ集団などを中心に急速に進化しており、両国が主導する技術覇権争いが続いている。わが国でも、製造業、医療・創薬など幅広い産業で生成AIの活用が始まっている。それによる業務効率化や熟練技能の横展開などを通じて生産性と競争力向上に寄与する可能性があり、少子高齢化による労働力不足への有効な対策にもなりうる。一方、生成AIの普及に伴うわが国の懸念材料として、「デジタル赤字」の拡大がある。生成AIの利用は膨大な計算を要するため、海外のクラウド計算基盤への依存度が高まる。わが国の2024年のデジタル赤字は約6兆円に達しており、今後10兆円規模へと拡大するとの予測もある。また、「経済安全保障」の観点からも、AIやクラウドを海外に依存するリスクは大きい。サービス停止やデータ流出が起これば、経済社会に深刻な影響を及ぼす。日本政府は危機感を強め、国産LLM支援策「GENIAC」や計算基盤整備などを進めているが、民間投資の少なさが深刻な課題となっている。2023年のAI分野への民間投資額は、アメリカが約10兆円、中国が約1.2兆円であるが、日本は約1,000億円にとどまり、国別で世界12位と、この両国に大きく水をあけられている。投資の遅れは国産LLMの開発や計算資源整備の停滞に繋がる。わが国が生成AIで競争力を強化しつつ、デジタル赤字と経済安全保障リスクを抑制するには、官民連携による民間投資の活性化と国産LLMの実装、クラウド計算資源の整備と人材の育成が急務である。とりわけ、産業界による国産LLMの実装投資が大切で、政府は国内AI基盤の整備支援で民間の動きを後押しすると同時に、官民でAI人材の育成に注力すべきである。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)