オピニオン
山形県酒田・庄内エリアにおける地域カーボンサイクル産業構築へのカーボンマネジメント事業の先行モデル確立に向けた政策支援の提言書
2025年11月28日 カーボンサイクルイノベーションコンソーシアム2024:主催者 日本総合研究所メンバー、福山篤史、瀧口信一郎、野田賢二、七澤安希子
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、各分野で多様なCO2排出削減策が進む一方、今後も一定の排出が避けられない産業分野も存在する。こうした分野の脱炭素化に向け、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)は、CO2の貯留・固定に留まらず、CO2を資源として利用するものであり、産業政策と脱炭素化政策の両立を図る上で有効な手段である。さらに、化石資源依存からの脱却が進む中、化石資源を原料とする素材産業全体の変革が求められる。このような状況において、化石資源に代わる持続可能な炭素源としての、二酸化炭素(CO2)やバイオマスの活用が重要課題である。
この課題意識の下、株式会社日本総合研究所が主催者、国立大学法人京都大学・京大オリジナル株式会社が推進機関として、「農林水産業×素材産業地域における持続可能な炭素循環産業の創出」を目的として、産官学連携によるカーボンサイクルイノベーションコンソーシアム2024(CCIコンソーシアム)を2023年に設立した。地域で発生するCO2・バイオマスを資源として活用し素材を製造し、循環的に利用する一連のサプライチェーンに基づく事業構造を「地域カーボンサイクル産業」と呼び、早期事業化の適性が高い山形県酒田・庄内エリアでCO2に焦点を当て、事業化までの道筋を検討してきた。
CO2の分離回収・精製、分配輸送、需給調整、需要家の開拓・誘致、などの機能を統合し、サプライチェーンを効率化する事業を「カーボンマネジメント事業」と定義した。その事業採算性の検討を行った結果、新たに設備投資をした場合、供給単価が市場価格を上回る可能性が高いことを特定し、その価格差を縮小するために「低コスト化を実現する分離回収技術の開発」「設備投資を抑制する産業構造の設計」「単価差を是正する制度設計」の三つの課題を整理した。前二者への対応を進めたとしてもCO2供給単価の低減に時間を要するため、早期事業化に向けて課題3に対する解決策として、二つの施策を本政策提言書において提案する。
政策提言書本文「山形県酒田・庄内エリアにおける地域カーボンサイクル産業構築へのカーボンマネジメント事業の先行モデル確立に向けた政策支援の提言書」

(1)施策1:CO₂の複合的な価値に基づく販売モデルの構築:
「炭酸ガス製品としての利用価値+排ガスからのCO2回収価値」の2つを創出し、既存の炭酸ガス市場との価格差が小さい用途から順に、回収価値によって価格差を段階的に補填する施策である。本施策の有用性を確認するために、市場価格の見通しを確認した。
(2)施策2:政府による早期の事業化を図る政策支援の提案:
市場メカニズムだけでなく、事業立ち上げ期の費用負担と投資回収の不確実性を緩和し、民間投資を後押しするため、(A)段階的な価格差補填および(B)設備導入補助の実行方法、効果、課題を整理し、実効性ある政策パッケージとして提示した。
これらの施策を山形県酒田・庄内エリアにおいて先行的に実行することは、以下の戦略的意義を持つ。
・中核事業者が分離回収から需給調整、供給先調整までの運営ノウハウを蓄積できる。
・地域内実需者との連携による利用実績と信頼性を蓄積し、大規模展開の基盤を構築できる。
・この後のスケール拡大に伴う減価償却費逓減や輸送・運転コスト圧縮より、自立的な事業成立へ移行できる。
山形県酒田・庄内エリアでの先行的な取組は、CO₂を地域資源として循環利用する実践的な経済モデルを示すものであり、日本全体の脱炭素戦略にも大きく寄与する。今後、全国での地域カーボンサイクル産業の展開に向けて、より一層踏み込んだ政策と環境整備を期待したい。
【CCIコンソーシアム2024の体制】
〇主催
株式会社日本総合研究所
〇推進機関
国立大学法人京都大学
京大オリジナル株式会社
〇会員
<民間企業>(民間会員・協力会員、各五十音順)
住友重機械工業株式会社(民間会員)
日本製紙株式会社(民間会員)
横河電機株式会社(民間会員)
株式会社イービス藻類産業研究所(協力会員)
一般社団法人カーボンリサイクルファンド(協力会員)
サミット酒田パワー株式会社(協力会員)
東邦アセチレン株式会社(協力会員)
東洋エンジニアリング株式会社(協力会員)
B.A.U.M. Consult Japan 株式会社(協力会員)
株式会社三井住友銀行(協力会員)
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(協力会員)
ライジング株式会社(協力会員)ほか
<地方公共団体>
酒田市(協力会員)
山形県(協力会員)
山口県(協力会員)ほか
■日本総合研究所 CCIコンソーシアム2024メンバー
日本総合研究所 創発戦略センター 福山篤史、瀧口 信一郎、野田 賢二、七澤 安希子
※なお、本提言内容は、CCIコンソーシアム2024会員による検討結果であり、各会員の公式見解を示すものではありません。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

