Economist Column No.2025-058
高市政権の経済対策をどうみるかー日本版トラス・ショックを回避せよ
2025年11月21日 石川智久
■経済対策は21.3兆円。事業規模ベースでも42.8兆円と巨大に
政府は本日、総合経済対策を閣議決定した。所得税の「年収の壁」の引き上げやガソリン税の暫定税率の廃止による大型減税も含めて21.3兆円となっている。一般会計では17.7兆円、国の財政措置や地方歳出・民間支出などを加えた事業規模は42.8兆円と、非常に大規模となる。
■市場からは巨額の財政出動に疑問の声
与党内の声を受けて巨額の経済対策となったわけであるが、市場内では財政規律軽視を憂慮する声もみられる。円安も進んでいるほか、長期金利も20日には1.8%を超えた。株価は一旦盛り返したが、これは米国の有力半導体メーカーの決算が好感されたものであり、今回の経済対策が評価されたわけではない。実際、21日には再び下落傾向となっている。そもそも、現在は物価高が続き、需給ギャップがほぼ解消されているなど、高市政権が手本としたアベノミクスの発動時とは真逆の経済環境にあり、単なる財政積み増しによる需要刺激ではインフレ加速とそれを嫌気したトリプル安が続くリスクがある。
■規模ではなく的を絞った財政出動と、財政出動を伴わない成長戦略である規制改革を
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げているが、責任ある財政政策とは、財政規律を確保しながら、将来の成長につながる政策にしっかりと資源を振り向けることである。高市政権では、物価高対応、危機管理投資・成長投資、防衛力・外交力強化を3本柱としているが、物価高対応は低所得者層等の経済弱者向けに絞ることで金額を抑えることが不可欠である。また、危機管理投資・成長投資、防衛力・外交力強化、については、昨今の国際情勢に鑑みて強化することは重要であるが、金額ありきではなく、真に必要な部分に集中し、ムダを排除していくべきである。
高市氏は、英国初の女性首相であるサッチャー氏を目標とする政治家に挙げているが、サッチャー氏は財政再建に注力したことを想起すべきである。他方、物価対策や資産バブル回避のためには金融政策の正常化が求められるが、政策金利を上げていくなかでは、なおさら財政再建が求められると認識すべきである。低位安定していた日本の長期金利が顕著に上昇するなか、財政再建を先送りする余裕はない。英国の 3 人目の女性首相であるトラス氏は財政規律への配慮を欠いたことで金融市場の動揺を招いたが(トラス・ショック)、その二の舞は回避しなければならない。財政再建の中期プランを作成し、強くコミットすることなどを通じて、市場の信認を得ていくことを期待したい。
加えて、財政出動を伴わない成長戦略である規制改革の議論が低調なのは大きな問題であり、早急に取り組んでいくことが不可欠である。
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