株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門は、TOPIX500社における役員報酬の支給実態について調査しましたので、この結果を公表します。
【調査概要】
□調査目的
・TOPIX500社における報酬水準や報酬構成比率等を調査・分析し、役員報酬制度を検討する際のベンチマークデータの1つとして活用することを目的に実施した。
□対象企業とソース
・2025年5月末時点のTOPIX500構成銘柄498社を分析対象とした。調査は有価証券報告書をソース(※1)とし、有価証券報告書記載の4【コーポレート・ガバナンスの状況等】(2)【役員の状況】、(4)【役員の報酬等】から役員数、報酬項目および報酬額を抽出して整理した。
・有価証券報告書は2024年4月~2025年3月決算のものを用いた(2025年7月1日時点)。
■報酬水準
・TOPIX500社における社内取締役(執行役含む、監査等委員を除く)の年間1人当たり平均総報酬(※2)は中央値で75.1百万円、基本報酬43.6百万円、賞与21.3百万円、株式報酬12.9百万円であった。社内監査役(社内取締役(監査等委員)含む)の年間1人当たりの平均総報酬は中央値で26.5百万円であった。社外役員(※3)の年間1人当たりの平均総報酬は中央値で12.3百万円であった。
・各社の当期純利益に対する役員報酬総額の割合(※4)は中央値で1.2%であった。
■報酬構成比率(報酬総額に占める各報酬額水準の割合_※平均ベース)(※5)
・社内取締役の報酬構成比率は、企業規模(売上高)が大きいほど業績連動報酬比率が高くなる傾向がある。TOPIX500社において3兆円以上の企業では固定報酬(基本報酬):業績連動報酬(賞与+株式報酬、等)の構成比率はおよそ43: 57、TOPIX500社の平均ではおよそ56: 44であった。2020年度調査ではTOPIX500社の平均がおよそ70:30であったことから、TOPIX500社の業績連動報酬比率(実績)が高まっていることが伺える。
■業績連動報酬算定に用いるKPI(財務)
・社内取締役の賞与算定に用いるKPI(財務)は採用数(※6)の多い順に①営業利益、②当期純利益、③売上高(売上収益)。株式報酬(業績連動型)に用いるKPI(財務)は採用数の多い順に①ROE、②営業利益、③TSRであった。
・上記とは別に、KPIとして個人評価を用いている会社もあった。
・上記とは別に、KPIとしてESGも多くの会社で用いられていることが伺えた。ただし具体的な評価基準および基準の活用の仕方が分からない会社も少なからずあり、本レポートでカウントすることは控えた。
■ペイレシオ(1人当たりの役員報酬÷社員平均給与)
・社内取締役のペイレシオの中央値は9.0倍であった。企業規模が大きくなるにつれてペイレシオが高まる傾向がある。
※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
1.各社の当期純利益に対する役員報酬総額の割合
本調査における役員とは社内取締役・執行役、社内監査役・社内取締役(監査等委員)、社外取締役、社外監査役・社外取締役(監査等委員)を指す(以下同)。
TOPIX500社における各社の当期純利益に対する役員報酬総額の割合は1.2%であった(中央値_50%ile)。なお、25%ileは0.6%、75%ileは2.0%であった。役員報酬が最終利益を配分(内部留保、投資、役員等への配分)する1つの要素であることを考えると、利益対比で役員報酬の総額の推移を経年管理するという観点が重要になる。
また利益配分型の賞与(年次インセンティブ)を採用する企業においても、利益の何%を賞与原資とすべきか検討する際に、当該指標が参考になる。
業種別(大分類(※7))にみた当期純利益に対する役員報酬総額の割合(※8)は図表1の通りである。

※図表1の右側の縦棒グラフは、当期純利益に対する役員報酬総額の割合(範囲)における社数を示している。
2.社内取締役(執行役含む、監査等委員を除く)の報酬構成比率
役員報酬設計において、最初に業績目標100%達成時の基準となる報酬構成比率(その時のおおよその報酬水準)を定めてから、各報酬項目の支給基準を設計するという設計手順が重要になっている(※9)。
2-1.実績ベースの報酬構成比率
TOPIX500社における社内取締役の報酬構成比率の実績は、企業規模(売上高)が大きいほど業績連動報酬比率が高くなる傾向が見て取れる。3兆円以上の企業では固定報酬(基本報酬):業績連動報酬(賞与+株式報酬、等)の構成比率はおよそ43:57であり、業績連動報酬比率と固定報酬比率がほぼ同等であるが、企業規模(売上高)が小さくなるにつれ、固定報酬の構成比率が大きくなっている。
社内取締役の役務遂行は中長期的企業価値向上に資するものであり、役務遂行の結果を将来の企業価値を反映できる株式報酬で受け取ることは、貢献と処遇の取引関係をバランスさせる報酬ガバナンスの観点から非常に好ましいことである。
社内取締役の報酬構成比率(実績)は図表2-1の通りである。

出所:筆者作成
2020年調査と今回の調査を比較すると、基本報酬比率は平均で69.0%から13.0ポイント減少して56.0%となった。一方で賞与比率は20.4%から4.3ポイント増加して24.7%となり、株式報酬比率は9.5%から9.0ポイント増加して18.5%となった。業績連動報酬の比率が5年間で約1割増加したことになる。
2-2.基準ベースの報酬構成比率
TOPIX500社において基準となる報酬構成比率を有価証券報告書上で明確に公表している企業数は301社(60.4%)であった。売上高(企業規模)が大きくなるにつれ、公表する企業の割合が高くなっている。(図表2-2)
改正会社法施行規則第98条の5(取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針)にて、報酬等の種類ごとの割合の決定方針の開示が求められている。ステークホルダーが各社の役員報酬制度の考え方や制度の妥当性を判断するうえで、この報酬構成比率は最も重要な情報であり、例えば「インセンティブが適切に機能する報酬構成比率」などと曖昧な記述とせず、具体的に報酬項目間の構成比率を数値で表すべきである。

出所:筆者作成
3.社内取締役1人当たり平均報酬水準(※10)
売上高区分ごとに総報酬、基本報酬、賞与、株式報酬の水準を整理した。
図表3-2 基本報酬水準_支給社数497社/498社
図表3-3 賞与水準(※11)_支給社数438社/498社
図表3-4 株式報酬水準_支給社数442社/498社

出所:筆者作成
4.業績連動報酬算定に用いるKPI (財務指標)
賞与算定に用いるKPIは多い順に①営業利益、②当期純利益、③売上高(売上収益)。株式報酬(業績連動型)は①ROE、②営業利益、③TSRとなっている。下表は延べ採用社数であるが、KPIを複合的に組み合わせて用いる企業も少なくなかった。
なお非財務の個人評価は賞与算定において、TOPIX500のうちおよそ1/3で用いられている。一方の株式報酬算定においては、ほとんど個人評価を用いない傾向が見て取れる。

出所:筆者作成
なお業績連動報酬算定に用いるKPIとしてESG指標も多くの会社で用いられているものの、具体的な評価基準および基準の活用の仕方が分からない会社も少なからずあり、ミスリードを防ぐ観点から本レポートでカウントすることは控えた。
役員報酬制度設計の現場感として、会社業績に連動して支給する株式報酬額または株数を算定する業績連動型株式報酬を設計する場合、ほとんどのケースでTSRをKPIに用いている。指名報酬委員会で協議する際も、TSRをKPIに用いない理由はないといった雰囲気がスタンダードになっていると感じる。
5.ペイレシオ(社内取締役1人当たりの役員報酬÷社員平均給与)(※12)
TOPIX500社におけるペイレシオの中央値は9.0倍であった。企業規模が大きくなるにつれてペイレシオが高まる傾向にある。
なお筆者の調査によると2020年度調査の中央値は7.8倍で、今日まで継続して上昇している。従業員平均給与も継続して上昇しているものの、役員平均報酬はそれを上回っていることを裏付ける。

出所:筆者作成

業界によって従業員の職種構成と給与水準に違いがあることから、各社で比較検討する際には業界またはそれをもとにしたピアグループ間でのペイレシオ比較が有効である。
6.社外役員の報酬
6-1 社外役員の報酬構成比率
社外役員は経営における役割の性質から、業績連動性のある賞与や株式報酬を報酬項目として設定しない傾向(※13)が現れている。
今後は欧米企業で一般的な、会社業績KPIをもとに交付株数を変動させる業績連動型株式報酬以外のプレーンな株式報酬を社外役員に適用することを検討することが望ましいと筆者は考える。社外取締役の役割は今後さらに拡大する。金銭報酬だけでは報酬の機能論上、社外役員の役務の適正対価性や企業価値向上へのコミットメントを充足できない。
社外役員への株式報酬の適用拡大が求められる。

出所:筆者作成
6-2 社外役員の基本報酬水準
社外役員の年間1人当たりの基本報酬は平均値13.2百万円、中央値12.3百万円であった。

出所:筆者作成
●連絡先:リサーチ・コンサルティング部門:rcdweb@ml.jri.co.jp
(※1)役員報酬サーベイの方法論は、主として本調査で採用した有価証券記載事項から抽出する方法と、アンケートによる方法がある。それぞれの方法にメリット・デメリットがあり目的に応じて方法論を選択、または組み合わせて使用することが重要である。
(※2)有価証券報告書記載の4【コーポレート・ガバナンスの状況等】(4)【役員の報酬等】➁「役員区分ごとの報酬等の総額、報酬等の種類別の総額及び対象となる役員の員数」表に記載の報酬額を、(2)【役員の状況】①役員一覧に記載の役員数をカウントして除算した。
(※3)本稿において社外役員は、社外取締役(監査等委員を含む)と社外監査役を指す。
(※4) 割合=役員報酬総額/(当期純利益+役員報酬総額)にて計算した。
(※5)報酬構成比率(実績)は、各企業の報酬構成比率の平均を報酬構成比率とした。報酬構成比(基準)も同様である。
(※6)延べ数。
(※7)証券コード協議会「業種別分類に関する取扱い要領」による分類。中分類も同様。
(※8)TOPIX500の合計は左記を含めて単純集計した値である。
(※9)2021年3月改正の会社法における会社法施行規則第98条の5_④「①~③以外の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針」を受けて、設計上の基準となる報酬構成比率(業績100%達成時)をどのように設定するかという視点が役員報酬設計においてより重要になっている。本資料は実績値のみを公表しているが、これと併せて設計においては設計値(基準値)に関する報酬構成比率の情報も得ておくことが望ましい。
(※10)集計対象社数(社)は各報酬の支給社数を指し、%ileの額は支給社数における状況を示している。
(※11)賞与の変動幅(ボラティリティ)は目標達成時の100%を基準に上限200%~0%、または150%~0%程度で設計している会社が比較的多かった。報酬の規律上、報酬構成比率に基づく基準値と、変動幅はセットで設計しておくことが望ましい。
(※12)集計対象社数(社)はペイレシオ(倍)の調査対象とした会社の数である。当該調査の母集団である社数(社)からペイレシオ算定に要するデータを得られない会社を除いて算定した。
(※13)社外役員への株式報酬適用は、日本における現在の傾向を是とすることが全てと筆者は考えない。例えばプレーンなRS(Restricted Stock)のような前年度の会社業績にもとづくKPI達成率等から割当数を算定しない株式報酬は、社外取締役に期待される役務内容と報酬の性質が相反しないと考える。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

