■「チャイナショック2.0」とは 2025年7月14日付『ニューヨーク・タイムズ』にデヴィッド・オーター教授ら米国経済学者たちによって書かれた記事「We Warned About the First China Shock. The Next One Will Be Worse」では、「チャイナショック2.0」という言葉が使われた。まず、彼らが2016年に示した「チャイナショック1.0」についての内容は、1990~2000年代に安価な中国製品が米国市場に大量に流入し、米国製造業を衰退させ、雇用の大幅な減少をもたらした、というものだった。トランプ大統領が主導するムーブメント“MAGA”(Make America Great Again)は、西部のラストベルト(東部から中西部にまたがる「さびた工業地帯」)と呼ばれる地域の製造業が貿易によって衰退したことを問題視するが、それを裏付ける内容と言える。
ただし、これは中国の低賃金での労働力供給が限界に達すれば、米中間の大きな問題ではなくなるはずであった。実際に、労働集約的な産業はベトナムなど他の新興国に移りつつある。しかし、近年、航空、AI、通信、マイクロプロセッサ、ロボティクス、原子力・核融合、量子計算、バイオ・医薬、太陽光、バッテリーといった、米国が長年リードしてきた分野で中国が主導権を持ち始めている。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の調査(ASPI’s two-decade Critical Technology Tracker: The rewards of long-term research investment、28 August 2024)によれば、64の先端技術分野の研究ランキングでトップの国は、米国が2019〜23年に7分野(2003〜07年:60分野)に減少した一方、中国は57分野(同:3分野)となった。高付加価値で高賃金の雇用といった経済面だけでなく、地政学や軍事の面に影響するような産業が中国で急成長しているのである。つまり、中国経済の拡大により米国が被る影響が、安価な輸入品による製造業の衰退とそれに伴う雇用の減少である「チャイナショック1.0」から、経済面とともに安全保障や地政学リスクを含む「チャイナショック2.0」に移り変わっている、ということである。