日本総研ニュースレター
いまだ「社外」頼りの女性役員登用 ~中期的改善で真のジェンダーバランス実現を~
2024年12月01日 綾高徳
女性役員の社内登用は伸びていない
筆者はプライム上場企業1,637社の役員18,472人のジェンダーバランスについて、昨年度に引き続き実態調査を行った(2024年7月1日時点)。2030年までに女性役員比率を30%以上に引き上げる目標を政府および東証が掲げてから最初の6 月総会=役員改選シーズンが過ぎた時期に当たる。
その結果、役員に占める女性比率は 2023年度の13.6%から 1年間で16.4%へと上昇したことが分かった。しかし、社内役員に占める女性役員の比率は2.9%から3.5%への微増にとどまった。つまり、女性役員比率の増加の大半は社外役員によるものであったことになる。
社内役員を育てるのは時間がかかる
取締役会のジェンダーバランスの改善が進み、一定の政策効果が表れてきた。このペースが続けば、2029 年度にはプライム上場企業での30%達成が見えてくる。
ただし、厚生労働省が行った令和5年度雇用均等基本調査では、部長相当職の女性比率は7.9%に留まり、前年度の8.0%から変化がなかった。これは部長10人のうち女性は1人に満たない水準に留まっていることを意味しており、更に上位の執行役員クラスとなると女性はもっと少なくなる。ここから女性を業務執行取締役などの社内役員に登用させるのは「大抜擢」以外では考え難い。つまり、社内から女性役員を登用しようとしても各社の候補者プールはあまりに小さく、今後も当面の間、今回の調査結果のように女性登用は社外役員に集中してしまうことは避けられない。
一方課長相当職では12.0%(同11.6%)、係長相当職では19.5%(同18.7%)と対前年比でやや増加している。いずれはこれらの課長や係長が社内役員に育つことが期待できるが、それには10年単位の時間を要する。2030年までの6年間では、現在の課長、係長相当職は現実的な数字(女性役員比率の向上)に寄与することは難しい。
取締役会の社内外比率と社外役員数の両面で見直す
社内役員が育つまでは、社外役員をうまく活用した取締役会のジェンダーバランス改善の方法論が必要となる。
上記方法論における技術面でのポイントは、2030年女性役員比率30%を人数に還元して考える点にある。例えば、女性役員が3人いれば、7人の取締役会でも10人の取締役会でも30%目標を達成できることになる。
このように女性の社外役員3人体制で目標を実現させるには、取締役会の社内外比率と社外役員数をセットで検討することが重要となる。例えば、役員数全体を同じまま社外役員比率を上げ、その中で女性比率を高めていく方法が考えられる。
ただしこの場合、現在主に男性が就く傾向にある社内役員の人員枠を社外役員に譲ることになるため、社内からの抵抗が生じることも想定される。その場合、役員数全体を増やし、その増分で女性の社外役員を選任する方法も考えられる。社内役員のポスト自体は減らないので、現行の役員を含め社内からの異論は比較的出にくく、実現性が高い。
なお、わが国では社外役員の枠が相対的に少ない機関設計(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社)を採用している企業が多いが、日本企業の一部において採用されている米英型の指名委員会等設置会社は取締役がごく少数の社内役員と多数の社外役員で構成される。この場合は社外役員の人数枠が多いぶん、女性を多く選任しやすい機関設計であり、ジェンダーバランスを改善しやすい。
当然ながら、こうした取締役会の構造や役員の選任に際しては、ジェンダーバランスに偏った検討に終始せず、各役員が果たすべき役割やそのためのスキルマトリクスに対する
十分な考慮が必要となる。
取締役会の組成は新たな局面に
本稿では、中期的な時間軸をもって取締役のジェンダーバランスを改善していくための実践的な方法論について考察した。政策的方向性は前提条件であり、プライム上場企業としてはそれを達成するための打ち手を検討しステークホルダーに対し説明していく責任がある。日本企業は役員に誰を指名するか、という個別的な論点に加えて、機関として適切に機能する取締役会の組成を多様な観点から行うべき局面に入ったといえるであろう。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。