◾️自動車諸税の負担減が政治的議題に
今年7月、与野党は、物価高対策としてガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)の旧暫定税率の年内廃止で合意し、現在、代替財源を巡る協議が重ねられている。また、ガソリン税のみならず、軽油引取税の旧暫定税率についても、高市自民党新総裁が廃止に前向きな姿勢を示している。
さらに、自動車取得時の税(自動車税(環境性能割))についても、経済産業省が年末の税制改正に向けて廃止を要望しており、高市氏も総裁選期間中に2年間停止する案を表明している。トランプ政権の関税引き上げにより打撃を受けている自動車業界を下支えする狙いがある。
なお、物価高が政治的な優先課題になっていることを踏まえれば、こうした減税が実施される場合の代替財源の多くは、個人所得税ではなく法人税に求めることが自然となろう。
◾️物価高・トランプ関税対策として適切か
現在議題になっている自動車諸税の負担減について、肯定的評価を下すことは難しい。まず、ガソリン税の旧暫定税率廃止のメリットを享受できるのは、自動車保有世帯が中心であり、物価高で真に困窮する世帯への支援になるかどうかは疑わしい。わが国の財政状況が厳しいなか、物価高対策を講じるのであれば、より対象世帯を絞った効率的な手法が望ましい。脱炭素の取り組みに逆行する点も見逃せない。
次に、軽油引取税の旧暫定税率廃止については、その恩恵が運送業や旅客業に及ぶことになるが、その政策目的は必ずしも判然としない。自動車税(環境性能割)の負担減についても、トランプ関税の影響を受けているのは自動車業界だけではなく、公平性の観点で問題があると言わざるを得ない。
◾️自動車税制のあるべき姿の議論を
何より今回の議論に関して懸念されるのは、目先の負担軽減策に偏り、自動車税制のあり方自体について本来求められる議論が疎かになっていないかということである。多様な税目で構成されている現行の自動車税制は、課税の根拠が体系的に整理されていないほか、電動車の普及やカーシェアリングの広まりといった近年の環境変化に十分対応できていない。その結果、納税者間で著しい不公平が生じている。例えば、現行の自動車税制を、3つの負担原則、すなわち「道路利用量(走行距離)」「車両走行による道路損傷度」「環境汚染度(CO2排出量)」に応じて自動車ユーザーが負担するという原則のもとに見直した場合、普通乗用車の税負担が減少する一方、トラックやバスの税負担は著増するという結果になる(詳しくは、参考文献を参照)。こうした現行税制が抱える課題も踏まえ、2025年度与党税制改正大綱(2024年12月20日決定)では、自動車関係諸税の総合的な見直しについて「(2026年度)税制改正において結論を得る。」と明記されていた。
しかしながら、現状、このような掘り下げた議論が進展している気配はみられない。総務省の自動車課税(地方税)に関する検討会では部分的な議論がなされているものの、自動車税制を体系的に捉える視点は乏しく、マイナーチェンジで対応しようとする姿勢が踏襲されている。自動車諸税の負担減を議論するにしても、自動車税制のあるべき姿について体系的・抜本的に議論することを疎かにしてはならない。
参考文献
立岡健二郎(2020)「自動車関係課税のあるべき方向性を考える

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