大阪・関西万博は10月13日に閉幕し、今後は万博会場の跡地開発や夢洲のまちづくりに焦点が移る。そこで、過去に海外で開催された大規模な万博(登録博、旧一般博)の跡地や都市開発の動向を概観し、大阪・関西万博閉幕後の取り組みを考えるヒントとしたい。
■万博後の開発の成否は様々
①セビリア万博(スペイン、1992年)
スペイン南部のアンダルシア地方の産業振興を目的に、セビリア市街地の北西に位置するカルトゥハ島が万博会場として開発された。万博終了後、会場跡地南側にはサイエンス&テクノロジー・パーク、北側には公園やスポーツ施設が計画・整備されたものの、当初期待されていたハイテク産業の育成は道半ばの状況にある。一方、万博の開催に合わせて実施されたセビリア空港の拡張や高速道路・鉄道の整備は、セビリアの観光業や農業、製造業の発展に寄与したとされている。
②ハノーバー万博(ドイツ、2000年)
ハノーバーは万博開催前から、製造業の国際展示会「ハノーバーメッセ」の開催地として有名であり、万博開催にあたっては、既存の施設を広く活用し、新たな施設も多くが恒久施設として建設された。ハノーバー万博は、来場者数が目標の半分以下にとどまり、イベントとしては失敗とみなされることが多い。ただし、万博の開催に伴う交通インフラの整備やノウハウの蓄積、知名度の向上などが、その後のハノーバーのメッセ都市(MISE都市)としての地位向上に大きく寄与したと評価されている。
③上海万博(中国、2010年)
上海市中心部から南に5kmほどの場所に位置する老朽化した工場や造船所、発電所などがあった地域を大規模に再開発し、開催された。万博の開催に合わせ、地下鉄や高速鉄道の整備、空港の拡張などが行われた。現在、跡地には、公園、展示会場、文化施設(博物館・美術館、劇場、アリーナなど)、ショッピングモール、オフィスなどが立地している。超高層ビルが立ち並ぶ上海の中心部と比べると、公園・文化エリアという印象が強い。
④ミラノ万博(イタリア、2015年)
ミラノ万博は、ミラノ市中心部から地下鉄で北西に30分ほどの郊外を会場とし、「食」をテーマに開催された。万博跡地では、イタリア北部に医薬品や化学品製造業の集積がみられることを踏まえ、ライフサイエンス分野の研究施設や大学、医療機関などの誘致を中心とした計画が進められているものの、政治的な混乱や資金不足などから、再開発計画には遅れがみられ、依然として完成には至っていない。一方、「食」をテーマとした万博の開催は、イタリア・ミラノの食文化の発展・多様化に貢献したとされている。
■従来から持つ強みを活かした開発が成功のカギに
過去の万博の動向を踏まえると、開催都市が万博開催前から持っていた強みをさらに磨く取り組みが功を奏しているといえる(セビリア万博の観光、ハノーバーのMISE、ミラノの食など)。一方、万博跡地での新たな産業の誘致・育成には苦戦している地域が多い(セビリアのサイエンス&テクノロジー・パーク、ミラノのライフサイエンス関連施設など)。
また、万博会場の立地が郊外となることが多いため、万博跡地が公園や文化施設エリアとして活用されやすい傾向がある(セビリア万博、上海万博など)。その他、万博開催に伴う交通インフラの整備が、万博会場だけでなく、開催都市のアクセス向上に寄与している点は、万博跡地がどのような形で活用されるかに関わらず共通点として指摘できる。
■大阪・関西万博の跡地開発への示唆
大阪・関西万博の跡地開発をめぐっては、国際観光拠点としての再開発が計画されている。大阪が観光に強みを持つ地域であるほか、夢洲の隣接地にIR(統合型リゾート)が開業することを踏まえると、観光関連施設の立地は万博跡地の活用として理に適ったものといえる。加えて、従来から持つ強みを活かすという面では、観光コンテンツの一つとして、大阪・関西の「食」や医療ツーリズムに焦点を当てた施設を設けるのも一案ではないだろうか。また、万博跡地にとどまらず、夢洲を含むベイエリア一体を一つの地域として捉え、交通インフラの拡充等を図りながら、観光コンテンツの醸成を進めていくことも重要となろう。
大阪・関西万博の跡地開発をきっかけとしたまちづくりが、大阪・関西経済の浮揚につながることを期待したい。
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