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ビューポイント No.2025-021

【自律協生社会シリーズ③】
インフレ時代の経済運営の再設計―金融正常化と供給力強化が2本柱―

2025年10月06日 西岡慎一


1.持続的な物価上昇、家計に負担集中
近年のわが国では、供給制約や円安などを背景に物価上昇が定着しつつある。食料やエネルギー価格が高騰しているほか、最近では人件費の増大を物価に反映させる動きも強まっている。都市部では、住宅価格が高騰し、これまで粘着的と考えられてきた家賃も上昇に転じている。こうした生活コストの増大が家計を圧迫しており、とりわけ中低所得層では消費意欲の低下が鮮明になっている。一方、企業では、積極的な価格転嫁や海外事業の増益などで、貯蓄が投資を上回る傾向が一段と強まっており、家計と企業の間で景況感の格差が広がっている。

こうしたなかで誕生した自民党の高市新総裁は、「積極財政」を掲げ、物価高対策や成長投資に向けた政府支援に前向きな姿勢を示す。ただし、持続的な物価上昇への耐性を強めるためには、金融政策の着実な正常化と供給力の強化に向けた構造改革が2本柱となる。これまでの政権は、物価高対策として価格統制や給付・減税などを実施してきたが、全世帯を対象とした政策は巨額の財政資金を要し、長引く物価高への対策としては持続性を欠く。中長期的な供給サイドの強化に財政政策の重点を置き、財政規律の向上に向けた取り組みに注力することが求められよう。

2.物価上昇への耐性を強める2本柱
(1) 金融政策の正常化
政策金利の着実な引き上げが重要である。利上げは円安圧力を緩和し、輸入物価の上昇を抑えるほか、金利収入の増加で家計負担を軽減させる効果も期待できる。最近では、株式や不動産など一部資産価格の高騰がみられることを踏まえると、金融面の不均衡を未然に防ぐ観点からも、金利の正常化が求められる。

その際に重要なことは、政府と中央銀行が物価や成長に関する目標を共有し、経済・物価情勢を正確に見極めながら政策を調整していくことである。そのうえで、政府は中央銀行の独立性を尊重し、中央銀行は市場との対話を通じて政策運営の透明性と予見可能性を高めることが不可欠である。こうした一貫した政策運営こそが、物価安定と経済成長の両立に対する内外の信認を高める礎となる。

(2)供給力強化に向けた構造改革
(国際競争力の強化)
高付加価値分野や戦略分野で、国際競争力を高め、輸出可能な供給体制を構築すべきである。これは物価安定に資するほか、経済安全保障の観点からも有益である。国際市場でも通用する産業競争力を磨きつつ、サプライチェーンの再編を進めることが重要である。そのためにも政府は、企業に対して研究開発から社会実装に至るまで一貫した支援を実施すべきである。その際、支援対象となる重要度の高い物資や技術を適切に選定するため、政府はガイドラインを策定し、野放図な支援を回避することも不可欠である。

(企業の投資促進)
生産性の向上や生産能力の拡充に向けて、企業の積極的な投資を促進すべきである。企業は省力化や自動化といった分野への投資はもとより、人材投資を戦略の中心に据えるべきである。リスキリングや職場内訓練を体系的に行うことで、AI活用や次世代エネルギーといった成長分野への人材シフトを進めることが期待できる。こうした投資を促進するために、政府は助成金や税制の活用を拡充していくことが必要となる。

(産業の大規模化・集約化)
産業の大規模化や集約化を進めることも供給力を強化しうる。たとえば、農業分野では、収益性の高い経営を志向する法人や大規模農家に農地を集約するほか、アグリテックの導入により、高品質な農産物を輸出できる体制づくりが求められる。また、中小企業の再編に向けて、優遇税制の見直しなどを通じて、企業規模の拡大や統合を後押しする制度設計へと転換すべきである。あわせて地域金融機関を再編・統合し、企業再編に資する資金供給力を強化することも検討に値する。

(規制緩和)
規制緩和の推進でイノベーションの創出を促すことが求められる。たとえば、既存の地域特区を単なる実験場にとどめず、その成果を全国展開する仕組みを強化することが重要である。また、データ利活用やAI・自動運転などの実証実験の規制緩和などを通じて、デジタル化を推進する取り組みも検討課題となる。

労働規制の緩和も検討する余地がある。たとえば、知識集約型産業では、成果と労働時間が比例しないケースが多く、現行の時間外規制が制約となって労働時間を十分に確保できない労働者が少なくない。とくに、少人数で多様な業務を担うスタートアップ企業でそうした事例が多くみられる。裁量労働制の適用範囲を広げるなど、労働時間を巡る規制を緩和することで供給力が引き上げられる可能性がある。

(働き方改革の進化)
働き方改革の進化も不可欠である。上述の労働規制の緩和が一案となるほか、外国人労働者の活用も不可欠である。地域や産業によっては、外国人労働者なしでは操業が難しい分野が増えている。受け入れを拡大しつつ、社会の分断を回避するには、日本人の納得感が得られる政策が必須である。日本社会への高い適応力と就業意欲を持つ外国人材に絞り、なし崩し的な受け入れを避けるとともに、特定国に偏らないよう配慮する必要もある。同時に、日本の社会保険サービスを求めて入国する無業の外国人に対しては、応益負担の原則を徹底し、適切な対価を求める制度整備も導入すべきであろう。


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