ビューポイント No.2025-020
【自律協生社会シリーズ②】
高市新総裁に望む経済政策―「日本のサッチャー」として次世代への責任を果たす政策運営を
2025年10月06日 石川智久
今般、高市早苗氏が自民党総裁に選出された。自民党 70 年の中で初の女性総裁であり、まさに時代の変化を感じさせる。今後、首班指名を経て組閣となるが、衆参両院とも少数与党となるなか、政権の枠組みも大きく変わる可能性がある。そこで、新首相が取り組むべきと考えられる経済政策について、以下にまとめた。なお、本稿は全体の方向性に関する概論的な位置づけであり、個別分野(マクロ政策、財政政策、地方創生、環境エネルギー)については別途シリーズのかたちで提言を発信する予定である。
1.全体の方向性
まず、全体の方向性として、次世代の人々のことを考え、責任ある政権運営を望みたい。我々は世界経済の歴史的な転換点に立っている。米国が自国第一主義となり、中国も保護主義化するなか、日本としては、既存の枠組みに捉われない、新たな国家戦略の構築が求められている。同盟国である米国との友好関係を維持しつつ、近隣諸国との深刻な対立も回避しながら、グローバルサウスを含む世界各国との関係多角化・深化が重要であり、激動の国際社会のなかで自立した国家となる必要がある。
また、次世代への責任という意味で、財政再建が重要である。高市氏は「責任ある積極財政」との立場であるが、ぜひとも財政再建という責任を認識し、バラマキではない財政運営を期待する。高市氏は英国初の女性首相であるサッチャー氏を目標とする政治家に挙げているが、サッチャー氏は財政再建に注力したことに留意すべきである。物価対策や資産バブル回避のためには金融政策の正常化が求められるが、政策金利を上げていくなかでは、なおさら財政再建が求められると認識すべきである。低位安定していた日本の長期金利が顕著に上昇するなか、財政再建に時間的余裕はない。英国の 3 人目の女性首相であるトラス氏は財政規律への配慮を欠いたことで金融市場を動揺させたが(トラス・ショック)、そのような事態は回避すべきである。加えて、財政出動を伴わない成長戦略である規制改革の議論が低調なのは大きな問題であり、早急に取り組んでいくことが不可欠である。
2.短期的な政策
必要な経済政策については、短期的な政策と中長期的な政策に分けて考えていく必要がある。まず、短期的な観点で、ガソリンの暫定税率については、足元の状況に鑑みて、引き下げていくべきであるが、それとは別に、環境と経済成長を両立させる新たな税制構築の議論を始めるべきである。また、給付付き税額控除やユニバーサルクレジットは早急な実現が望まれ、実行力が重要である。外国人労働者については、大多数の日本人の納得が得られる政策とすることで、国家分断を回避することが必須である。そのために、受け入れは日本社会への高い適応力と就業意欲を持つ外国人材に絞り、なし崩し的な受け入れ拡大を避けるとともに、その数も特定国に偏らないよう配慮する必要がある。なお、消費税減税が議論されているが、足元の財政状況等を考慮すると実施すべきではなく、低所得者対策等は所得税や社会保険料の削減等で行うべきと考える。
また、日本銀行と協調して、円滑に金融政策の正常化が進むようにすべきである。
3.中長期的な政策
中期的な政策については、社会保障給付が拡大し、現役世代の税・社会保険料負担の拡大が続くなか、資産が高齢者に偏っていることなども考慮し、現役世代の負担を減らした社会保障制度・税制を目指すことが重要である。
また、団塊の世代が後期高齢者入りするなか、人手不足への対応は喫緊の課題である。労働供給をいかにして増やすか、少ない労働投入でいかにして供給力を確保するのかが重要な論点である。経済安全保障の観点からも、供給力の強化を通じて、日本経済の成長と自立を促進していくことが不可欠である。
地方の疲弊を止めることも待ったなしである。人手不足により現在の行政区分を前提にした行政サービスの提供が困難な状況が、多くの自治体に現れている。行政区分を超えた視点で政策を実施する必要があり、行政機構も含めた抜本的な変革を通じて真の意味で官民連携による地方創生を進めるべきである。
また、万博の成功で人々の関心が高まっている大阪においては、その勢いを活用して、東京とは違う発展スタイルを生み出し、各地域のモデルケースとなるような府・市・自治体の新たな連携のかたちを提示することが期待される。
地政学的リスクや脱グローバル主義の動きに備え、エネルギーの安価で安定的な調達と供給は欠かせない。脱炭素は維持しつつ経済安全保障の観点から取り組みを強化する必要がある。そのために、「水力発電」や「バイオマス発電」という「山の国内資源」を活用した発電量を倍増すべきであり、その事業を官民協調で実現するため「地域版GX債」を発行すべきである。不透明な国際情勢を考慮すると、既存原子力発電の安全を確保したうえでの安定稼働のほか、日本技術による「新世代エネルギー」の開発が急務である。領土・領海・経済的排他水域(EEZ)で世界 6 位の面積を持つ日本は、海水中に含まれる重水素、リチウムによる「核融合発電(フュージョンエネルギー)」など「海の国内資源」による「新世代エネルギー」も進める必要がある。
当社は、市民や自治体、企業、国などの各主体が「自律」しながら、ビジョンや目標を共有し「協生」する「自律協生社会」を提唱しているが、新政権においては、この自律協生社会の構築に資する政策対応を進めることを期待する。
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