RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.25,No.97
太陽光発電から読み解く中国「新質生産力」の実力 ―付加価値構造の変化が示す製造業の進化 「世界の工場ver2.0」の始まり―
2025年09月11日 三浦有史
中国の太陽光発電の設備容量は、2024年末に887ギガワットに達し、世界の47.7%を占める。また、中国の太陽光発電関連製品の生産能力は、実に世界の8割超を占める。中国に生産能力が集中する背景には、中国自身が世界最大の太陽光発電市場となり、製造コストの大幅な引き下げが可能になったことがある。
中国の太陽光発電関連製品の輸出額は、2022年をピークに減少傾向にある。輸出額の減少は、輸出量の増加を上回る単価の低下によるものである。主な輸出先はアジアと欧州であるが、輸出は今後一段と停滞し、企業の業績に悪影響を与えるとみられる。
米政府が中国から東南アジアを経由する「迂回輸出」に高いアンチダンピング税(AD)・補助金相殺関税(CVD)を課すため、中国のアメリカ市場へのアクセスは大幅に制限される。一方、欧州委員会(EC)はCVDを発動しないため、欧州市場における中国のプレゼンスは低下しないとみられる。
中国の太陽光発電メーカーは、迂回輸出のためのルートを構築するだけでなく、輸出よりも雇用創出や技術移転を通じて経済の底上げに貢献する現地生産が輸出先国政府から歓迎されることから、海外製造拠点を増やしている。新たな投資先としては、需要が急速に拡大する中東が注目されている。
中国太陽光発電メーカーは、高い関税に加えて、米国内に設けた工場が補助金の対象から外される可能性があることから、アメリカ市場への直接的なアクセスが格段に難しくなる。そのため、中国企業は中東を輸出拠点にする、あるいは、工場の資本構成を変えることで、アメリカ市場へのアクセスを試みるとみられる。
過剰生産能力の問題が顕在化したことを受け、中国の太陽光発電メーカーの業績は2024年に入り急速に悪化した。また、設備容量ほどに発電量が増えず、設備利用率が低いという問題も抱える。それでも、中国は次世代技術のペロブスカイト電池の量産化で先行しているため、引き続き市場と技術の両面で世界をけん引すると見込まれる。
習近平政権は、新質生産力が中国経済を支える新たな力になると期待する。この背景には、新質生産力が、①外的要因に左右されにくい強い産業基盤を有している、②中国に帰属する付加価値の割合が高い、③製造拠点が第三国に移る可能性が低い、という伝統的輸出品目にない特徴を備えている事実がある。
新質生産力を代表する3産業が海外生産拠点を増やすのに伴い、中国の製造業は世界の製造業および輸出に占める割合を上昇させる「世界の工場ver1.0」から、製品の付加価値に占める割合を上昇させる「世界の工場ver2.0」へと進化することで、そのプレゼンスを一段と高めていくとみられる。
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