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Economist Column No.2025-035

自覚なき男性の固定的性別役割分担意識

2025年07月28日 藤波匠


【本論考は、共同通信社のKyodoWeekly 7月14日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】

ジェンダーギャップの解消に、国や地方自治体が、遅ればせながら本気で向き合い始めている。地方から大都市に向けた女性の流出が顕著な状況の背景に、地方のジェンダーギャップの大きさに問題があるとみられるためである。
一般に、地方には女性向けの仕事が少なく、高学歴の女性が大都市に流出する傾向にある。地域によっては、フルタイムワーカーの賃金水準が女性は男性の7割以下にとどまり、管理職従事者比率は2割以下となっている。
そもそも製造業に強みのある地域では、理系、技術系人材に対する需要が強いため、男性優位の採用につながり、地域からの女性の流出をもたらしている。また、男性優位の意識や家事・育児は女性の役割という考え方が、中高年を中心に根強く残っている地域もある。
6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」では、女性や若者に選ばれる地域社会の実現が喫緊の課題とされている。雇用における男性優位の構造の転換を目指し、働き方や職場の改革などを、産業界を巻き込んで進めていこうとしている。企業には、賃金水準や役職登用などにおける男女格差の是正はもとより、家事育児負担が女性に偏っている状況を踏まえ、男性の育休取得推進や残業の抑制など、男性も家庭に向き合えるよう配慮することが求められる。
地域社会においても、ジェンダーギャップが根強く残っている。地方議員に始まり自治会の役員に至るまで、男性中心で固められ、政治や地域社会の運営に女性の意見が反映されにくい状況にある。地方議会議員は、女性は男性の2割以下、自治会長に至っては1割にも届かない。
賃金水準や昇進スピード、男性の育休取得率など、数値で一目瞭然のジェンダーギャップに関しては、取り組み次第で徐々に改善が進むかもしれない。難しいのが、各々の心の中にある固定的性別役割分担意識の払拭である。「家事・育児は女性の仕事」や「地域の集まりでの食事の準備やお茶出しは女性の仕事」のような人の心の内に刷り込まれた固定的な性別役割分担意識は、気付きづらく、変えることも簡単ではないと考えられる。若い世代では、こうした意識はほぼなくなっていても、地域社会の多数派である中高年には、根強く残っているとみられる。
内閣府の「令和6年度地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査」に面白いデータがある。「家事・育児・介護は女性の仕事」など、9つの固定的な性別役割分担意識の地域における有無をたずねている。この結果の面白いところは、「有る」との回答率が、女性は全国で地域差が少なく高水準である一方、男性は低く、地域差が顕著なところである。男女の差異が大きい地域では、性別役割分担意識があることに、多くの男性が気づいていないことになる。
総じて男女の差異が大きいのは、北海道・東北エリアである。この地域で女性の転出が多く、合計特殊出生率が全国的に見て低い根本的な背景には、男女間のジェンダー平等意識の乖離の大きさがあるのかもしれない。それを自覚していない男性の意識改革を促すことは容易ではないが、様々な機会を通じて住民意識の改善に取り組むことが求められる。


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