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Economist Column No.2025-029

内閣官房に外国人政策の司令塔設置~欧米の失敗から学び、なし崩しではなく、国家分断を回避できる戦略性を持った外国人政策を

2025年07月09日 石川智久


■内閣官房に外国人政策の司令塔設置
石破首相は7月8日の閣僚懇談会の中で、来週初めに内閣官房に外国人施策の司令塔となる事務局組織を設置することを表明した。現在、日本に居住している外国人数が376.9万人(2024年12月末)と、総数は都道府県で10番目に大きい静岡県並みとなったうえ、足元も増加傾向にあり、彼らと日本社会の共存共栄は政府として対応すべき喫緊のテーマとなっている。また、現在は出入国在留管理庁が中心となって対応しているものの、同庁の主な業務は水際での出入国管理が業務であり、国内に居住している外国人の様々な行政ニーズは他の省庁や自治体が個々に対応しているなど、総じて場当たり的な対応となっている。こうしたなか、司令塔を設置して、政府一丸で対応を講じるようになったことは評価したい。もっとも、組織を作るだけでなく、当然ながら、適切な政策を講じ、運営していく必要がある。世論をみると、外国人の受け入れに慎重な意見が根強い一方、人手不足の深刻化を背景に受け入れ賛成派も増えている。国を二分しかねないテーマでもあるため、両者の意見を聞いた丁寧な対応が求められる。

■欧米の失敗~国家分断を招いたとの反省からこれまでよりも保守的なスタンスへ(選択的な外国人労働者政策への転換)
欧米では足元、外国からの移民が増えすぎたことへの社会の反発が強く、それがトランプ政権誕生や、欧州における極右政党躍進の下地となった。こうした状況を受けて、多くの国がこれまでの寛容なスタンスから、自国の経済成長等に貢献するような能力や語学力を持った人材のみを受け入れようとする選択的外国人労働者政策に移行している。日本としても、まずはこうした世界の動きを理解していく必要がある。

■ビジョンと司令塔が機能できる立法的措置を急げ
現在までのところ、日本は外国人労働者について、対症療法的な対応を続けてきており、結果として「なし崩し的な外国人の居住者増」が起きている。人手不足が深刻化するなか、このままでは野放図に外国人労働者が急増し、それに対して賛否が激しく対立する国家分断的な状況を招く恐れもある。
欧米の失敗を踏まえると、大前提として、無節操な外国人労働力の受け入れは避けるべきであり、社会が混乱しないような形で対応することが重要である。具体的には、日本の現状等を踏まえて、受け入れる人数(総枠もしくは国別の枠)・ペース、受け入れる人材の職種、日本語教育の強化等を通じた社会統合政策の推進、等を網羅した戦略的な外国人労働者政策のビジョンや政策パッケージを構築する必要がある。同時に、不法移民等に対して毅然とした対応ができるような体制整備も重要である。また、欧米等ではこれまで政府が外国人に配慮し、自国民を大事にしてこなかったとの批判もみられる。日本としても、そうした失敗を回避すべく、社会の根幹をなす日本人の多くにとって納得感のある政策パッケージとすることが分断を避けるために必要である。
そして、司令塔がきちんと機能できる体制整備も必要である。政府内での情報交換だけでなく、現場で対応している自治体へのサポートもできるようにすべきである。そのためには、基本法制定やそれに基づく基本計画等、政府一丸となって動ける立法的な対応を急ぐ必要がある。

<参考文献>
石川智久、後藤俊平【2024】「外国人労働者政策を考えるポイント-「欧米の失敗」から何を学ぶか-」、ビューポイント No.2024-023、日本総合研究所



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