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Economist Column No.2025-024

企業規模の拡大に舵を切った中小企業政策-「100億宣言」への期待と課題-

2025年06月19日 細井友洋


6月17日、経済産業省(中小企業庁)は、「100億宣言」を行った311社の中小企業を公表した。これは、売上高100億円を目指すことと、そのための成長戦略を経営者の名前・顔写真付きで対外的にコミットする新たな制度である。これまで、デジタル化や地域貢献など、分野ごとに活躍する中小企業をプレイアップする制度は存在していたが、企業規模の拡大にフォーカスした仕組みは本邦初となる。中小企業庁は、「100億宣言」の要件となる補助金や税制も新たに創設しており、政府として、中小企業の規模拡大に本腰を入れたことが明らかになった(中小企業の平均売上高は、2020年時点で約2億円)。

■「100億宣言」によって見込まれる効果
「100億宣言」は、以下の3つの経路を通じて日本経済にプラスになると考えられる。
第1に、スケールアップによる中小企業の競争力向上である。中小企業は日本の企業数の99%、雇用の7割、付加価値の5割以上を占める一方、労働生産性の水準は大企業の3分の1程度であり、伸び率も大企業に大きな差をつけられている。売上高が100億円近くになれば、大規模な設備投資が可能となり、労働生産性を大きく高めることができる。これにより賃上げ余力も拡大し、優れた人材を確保することが容易になる。中小企業の枠を超えて、中堅、大企業に成長する企業も出てきやすくなる。
第2に、地域経済の活性化である。売上高が100億円を超える企業は、多数の取引先を抱えるため、地域に新たな需要を作り出し、地域経済全体の底上げにつながる。中小企業庁によれば、「100億宣言」の申請を行った企業は1500社を超えており、すべての都道府県から申請があったとのことである。仮にこれらの企業の多くが売上高100億円を達成すると、数兆円規模の新たな需要が発生し、地域経済への波及効果はさらに大きくなると考えられる。また、現在は無名であっても、高い成長意欲を有する企業が見える化されることで、地域金融機関などにとってのビジネスチャンスにもなる。
第3に、東京一極集中の是正である。売上高100億円の企業は、大企業と比較してもそん色のない雇用・賃金環境を提供することが可能である。このため、できるなら地元で働きたいと考える若者に魅力的な就職先を提供でき、東京などへの人口流出を緩和する効果が期待できる。

■成功のカギは海外展開
上記の効果を現実のものにするためには、「100億宣言」を行った各企業の成長戦略実現に向けた努力と、それをサポートする官民の関係機関の役割が不可欠である。その際、日本の現状を踏まえれば、海外展開という視点が極めて重要になろう。少子高齢化と人口減少により、国内需要の伸びには限界があり、とくに人口減少の深刻な地域では成長の余地が限られるためである。
新興国への輸出や対外直接投資は、売上高100億円達成に向けた有力な選択肢となり得る。例えば、インドは世界最大の人口と成長著しい消費市場を抱えるだけでなく、「メイク・イン・インディア」を掲げ、製造業の強化を志向している。インドは日本の中小企業が有する技術力に期待しており、中小企業を含む日系企業のインド進出数を現在の10倍の15,000社に拡大したい意向である。中小企業のインド進出は、現地の裾野産業の集積と、大企業を含めた日系サプライチェーン全体の競争力強化にもつながる。
成長意欲のある中小企業がとりうる選択肢を広げるため、政府には、「100億宣言」を起点として、海外政府を含む関係機関との幅広い連携が期待される。



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