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自治体や企業が関わる、終活における意思決定の支援

2025年06月24日 泰平苑子


 令和5年度に、家族らによる引き取り手がいないために自治体が火葬した死者の数は、推定約42,000人で、令和5年の死亡数(1,576,016人、人口動態調査)の2.7%に相当する(※1)

 高齢期に支えてくれる家族や親族がいない、いても遠くに住んでいる、親戚付き合いも疎遠であるなどの理由で、家族や親族から生前・死後の支援が受けられない、または限られる可能性は、いまや、誰にとっても起こり得る。こうしたことから、人が自らの死を意識し、人生の最期を迎えるための様々な準備を行う「終活」が、高齢者を中心に少しずつ浸透している。終活には、何かあったときの連絡先の整理、介護や終末医療、葬儀の方針づくり、お墓の準備、財産や家財の整理、サービス等の解約などが挙げられる。
 しかし、心身機能が低下する高齢期に、上記のすべてを個人で考え、意思決定し、家族や親族など周りに相談し、協力や理解をとりつけ、準備を行うのは負荷が高い。さらに単身独居で身寄りがいない、頼れない場合は、負荷もより高まるだろう。
 少子高齢化、生涯未婚率の上昇、配偶者との死別、故郷と離れた都市での生活など、単身独居で身寄りがいない状況は誰にでも起こりえる。そこで近年、「終活情報登録事業」を行う自治体が広がっている。住民が、自身の終活の情報を、あらかじめ自治体に登録し、もしもの時には本人に代わり自治体から知人友人や家族、警察や医療機関に登録情報を伝えるサービスである。民間事業者でも、身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを行う高齢者等終身サポート事業は、総務省の調査によると、毎年10事業者以上が新たにサービスを開始している(※2)
 しかし、これまでの価値観として、介護に加え死後の遺品整理、家屋や財産の処分などは、家族や親族が対応するものであり、自治体や民間事業者の取り組みを利用することに、心理的抵抗がある方も多いだろう。また、日本では、その人の「死」の話をするのは縁起がよくない、という考えがあり、「死」はタブー視されがちな話題である。このような状況のもと、自治体や民間事業者が、高齢期の生前・死後に関わる取り決めを行う場合、「意思決定とその支援」が大切になってくる。

 筆者が、厚労省の調査の他、「SMBC京大スタジオ」の「誰もが生前・死後の尊厳を保つための持続可能な身じまい・意思決定とその支援」活動で行ったイベントでは、多くの企業に参加してもらい、顧客の高齢期や死後に関する意見交換を行った。終活情報登録事業を行う自治体や高齢者等終身サポート事業者に限らず、不動産や通信、金融など幅広い事業者からも、高齢期の顧客との死後の取り決めへの関心も寄せられた。企業としてどのように対応するか、という問いに対し、専門性を有する職員を置く、との声が多かった。しかし、家族や親族とも話しづらい「死」に関する話題で、相手との会話から価値観や考え方を把握し、要望を見出して最適なサービスを提案し、双方が納得する形で、死後の取り決めを含む契約を結ぶことができる職員の育成は簡単ではないだろう。

 そこで考えられるのは、高齢期や終活に関する顧客との会話をコンピューターに取り込み、これまで蓄積された言語情報データと合わせて、リアルタイムで自然言語処理を行い、会話要約や感情分析、質問応答、サービス提案に用いるAIを活用したアプリケーションだ。具体的な活用シーンとして、店の窓口で、高齢者と店員が会話する際にはパソコンやタブレットでアプリケーションが起動されている。高齢者の発話をアプリケーションが聞き取り、相手の想いや願い、サービス利用にあたっての条件や希望を表示してくれる。また店員が高齢者にどのように問いかけたら良いか迷うときは最適な質問を提案してくれる、などが考えらえる。契約の際、アプリケーションから、どのような点を踏まえて、今回のサービスを提案したか文書化してくれると、本人の納得はもちろん、その後、家族など周りの方にも、その利用契約に際し、本人の意思を配慮してくれたことを伝えやすくなるだろう。

 こうしたAIが、一足飛びに、死について話しやすくしてくれるわけではない。ただ、自治体や企業が終活に関わる取り組みを提供するにあたり、タブー視される「死」について、面と向かって話さなくても、会話などから想いを理解し、最適な提案ができるようにAIなどデジタルソリューションをも活用できるようになってきた。個人の意思決定を支援したい自治体や企業において、こうした技術を活用しながら専門性の高い職員を育成し、働きがいのある仕事づくりを行うことも重要だと考えている。

(※1) 株式会社日本総合研究所 厚生労働省 令和6年度社会福祉推進事業 実施報告 P43
(※2) 総務省 身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書 P18


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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