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Economist Column No.2025-021

合計特殊出生率が過去最低を更新

2025年06月16日 藤波匠


【本論考は、共同通信社のkyodoWeekly 6月2日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】

6月4日、厚生労働省から、わが国の合計特殊出生率や出生数などに関する2024年分のとりまとめである人口動態統計(概数)が発表された。一人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率は、過去最低だった前年の1.20を大幅に下回る1.15となった。もちろん出生数も過去最低を更新した。
合計特殊出生率が下がる要因として、一般的に若い世代が結婚をしなくなったということに注目が集まる。ほとんどの子どもが結婚した夫婦から生まれるわが国では、婚姻率の低下が出生率低下の最大の要因とみられがちである。実際、生涯未婚率と呼ばれる50歳時未婚率は上昇傾向にあり、2020年は男性28%、女性18%であった。人生の選択肢が多様化し、かつては人を評価する尺度の一つでもあった配偶者の有無が問われなくなっている昨今、未婚率の高まりをおさえることは容易ではない。こうした事態を前に、一般論として、また政策当局者からも、夫婦が持つ子どもの数は以前と変わらないのだから、若い世代が結婚に前向きになってくれさえすれば、合計特殊出生率はある程度回復するはずだ、といった希望的観測も聞かれる。
そもそも、「結婚はいいものだ」とか、「結婚するのが当たり前」といった固定観念が抜けきらない年配者からみれば、生涯未婚率がどんどん高まっていく現状は不思議に感じられよう。しかし、近頃は家族の在り方などに対する考え方が都市部に比べて保守的とされる地方においても、若い世代で非婚・晩婚が急速に進んでいることを踏まえると、この流れを食い止めるのは、容易なことではない。
加えて、近年「夫婦が持つ子どもの数は以前と変わらない」という通説に、疑義が生じる状況となっている。夫婦が持つ子どもの数に相当する有配偶出生率は、2015年以降、上昇から低下に転じている。出生数の変化を要因分解すると、2010年代前半まで、有配偶出生率は出生数の押し上げ要因であったが、2015年以降は押し下げ要因に転じ、しかもその影響は徐々に強まっている。たとえ婚姻率・婚姻数の低下を止めることができても、有配偶出生率を改善できなければ、今後も出生率・出生数の低下に歯止めをかけることにはつながらない。
また、有配偶出生率が低下しているにもかかわらず、子どものいる世帯の子どもの数に大きな変化は見られず、3人以上の子どもを持つ多子世帯の割合が低下している様子はない。これは、結婚しても子どもを持たない選択をした、あるいは希望したが子どもができなかった無子夫婦が増えていることを意味している。
希望しているにもかかわらず子どもができない夫婦に対しては、近年不妊治療への公的支援が手厚くなるなど、支援策は徐々に増えている。また、人生の選択肢が多様化している現在、自らの前向きな判断として、子どもを持たない選択をした夫婦が増加していることも考えられる。
ただし、子どもが欲しいにもかかわらず、経済的な問題や子どもが生きる将来に対する漠然とした不安から、持つことが難しい、あるいは持つべきではないと考える夫婦が増加している可能性もある。経済・雇用環境の改善はもとより、社会全体として普段の生活の中で若い世代が結婚・出産に前向きになり得る環境や雰囲気を醸成していくことも大切といえよう。



※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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