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「革新的な再生医療等製品の持続可能なエコシステムの確立に向けたホワイトペーパープロジェクト」について

2025年06月05日 野田 恵一郎、川内丸 亮介、中塔 充宏、野崎 雪乃、川﨑真規


 再生医療等製品とは、身体の再建や修復、形成、疾病の治療を目的として人の細胞や組織を加工して作製される製品です。再生医療等製品は、これまでにない治療結果を示す製品が続々と誕生しており、疾患の管理を変革する可能性を秘めています。
 株式会社日本総合研究所は、再生医療等製品の一例としてCAR-T細胞療法を取り上げた具体的な議論により、日本において深刻な医療ニーズを抱える患者が、継続して革新的な治療を受けることができる未来を目指すために、持続可能な再生医療等製品のエコシステム確立に向けた提言書(ホワイトペーパー)の作成に取り組みます。

 CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞(※1)を採取後、がん細胞を認識して攻撃するようにT細胞の遺伝子を改変し、患者に再び投与する治療法で、一度の投与により根治を目指すことができる治療法として期待されています。現在、CAR-T細胞療法は、白血病やリンパ腫の治療法として実用化されています。CAR-T細胞療法は、従来の治療法と比較し大きな治療効果が示されており、今後は、免疫や神経領域など新たな疾患領域への適応の拡大が検討されています。更に、長期の介護・入院費用を含む医療支出を削減し、患者の社会・経済活動への復帰を支援する社会的価値も期待されています。

 一方、研究開発の推進、製造供給体制の確立、医療提供体制の確立など、実用化に至るまでに高い費用が必要となりますが、高度で複雑なプロセスを十分に償還できる薬価制度や診療報酬制度が整備されておらず、十分な収益を得られる見込みは乏しい状況です。加えて、CAR-T細胞を生産できる国・地域は限定的であるため、製造の優先順位の観点からドラッグラグ・ドラッグロスの課題に直面することが懸念されます。

 治療によって得られた知見や収益を、次世代の研究開発に投じることができなければ、革新的治療法を生み出し続けるサイクルが循環しません。再生医療産業が発展し続けるためには、より多くの患者が革新的な医療を享受し、持続的かつ発展的にサイクルを循環するためのエコシステムの構築が必要であると考えます。例えば、患者自身の細胞由来の完全オーダーメイド製造であるCAR-T細胞療法の開発と製造プロセスは複雑ですが、日本がCAR-T細胞療法のエコシステムを確立することで、国際的にリーダーシップを発揮する機会にもなりうると考えます。また、エコシステムの確立は将来的な再生医療等産業を活性化し、日本の患者・家族、そして日本の産業に大きな便益をもたらすことが期待されます。

 再生医療等製品のエコシステムの確立に向けて改革を推進するためには、さまざまなステークホルダーが集まり、中長期的に議論を進めることが必要です。本プロジェクトでは、中長期的な議論に確実に踏み出すべく、医療経済、再生医療等製品の技術開発、診療に関する専門家と議論を深めつつ、再生医療の実用化とそれを支えるエコシステム形成の障壁を明らかにし、多彩な視点で解決策を模索します。

ご参画をいただく専門家(順不同)
・小黒 一正 先生 法政大学 経済学部教授 
・豊嶋 崇徳 先生 北海道大学大学院 血液内科学教室 教授
・中村 洋 先生  慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 教授
・八代 嘉美 先生 藤田医科大学 橋渡し研究支援人材統合教育・育成センター 教授

 これらの議論の成果は、ホワイトペーパーとして取りまとめ、実現可能な政策提言として2025年7月末頃に公開予定です。

*なお、この活動は日本における再生医療等製品の持続的、安定供給に向けて開発、製造、販売活動に取り組むブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社の協賛を得て実施します。

(※1)T細胞は、骨髄で産生された前駆細胞が胸腺で分化し成熟することで形成される。獲得免疫の中心的な役割を果たし、免疫系の機能をサポートする重要な細胞である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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