リサーチ・アイ No.2025-031 米国の大型減税法案が抱える3つの問題点 2025年05月29日 森田一至米国の大規模減税案である「大きく美しい1つの法案」は、条件付きで可決を認める財政調整措置により下院を通過。今後、上院審議や大統領署名を経て成立する見込み。もっとも、本法案には以下3つの問題点が指摘可能。第一に、景気刺激力の弱さ。財政支出の大部分は現行のトランプ減税の恒久化であり、新たな景気押し上げ効果を持つ追加減税の規模は、大統領選挙時の公約と比較して小。財政調整措置を利用した場合、一定程度の財政均衡が求められる「バード・ルール」の適用により、当初公約で掲げていた追加減税の多くで、規模の縮小や期間の短縮が必要となったことが背景。第二に、所得格差の拡大。本減税案では、高所得層向け所得減税の延長に加え、州・地方税(SALT)や相続税の控除上限引き上げが盛り込まれた一方、メディケイドや補助的栄養支援プログラム(SNAP)といった低所得層向け支出が歳出削減の対象に。議会予算局(CBO)の試算によると、本減税案が実施された場合、2029年時点で高所得層の所得が3%増加する一方、低所得層の所得は▲4%減少。第三に、財政基盤の脆弱化。本減税案が成立した場合、連邦政府債務は10年間で3.1兆ドル拡大し、財政赤字額はGDP比で7.6%に達する見込み。これはリーマンショックやコロナショックなどを除いた平時としては異例の大きさであり、財政赤字が問題視された1980年代を大きく上回る水準。米国財政の持続性に対する懸念が強まれば、足元で上昇基調にあるタームプレミアムが一段と押し上げられる可能性。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)