コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

ビューポイント No.2025-009

困難な米国の貿易赤字解消・製造業復活~不均衡是正に拘泥せず、日米両国の国益追求を~

2025年05月29日 牧田健


トランプ政権は、関税を手掛かりに貿易赤字の解消および国内製造業の競争力強化を図る意向を表明。米国では、GDPや雇用に占める製造業のシェアが低下しているものの、その一方で高付加価値産業に資源をシフトさせたことにより、高成長を実現。その見返りとして、一部製造業の基盤が著しく劣化した事実や、米国の覇権を脅かす中国への経済依存度が高まっていることを踏まえると、経済安全保障の観点から、製造業の競争力強化に取り組む意図は理解できる。

しかし、米経常赤字の背景には家計の旺盛な消費と財政赤字があり、貿易赤字の縮小は容易ではない。近年の保護主義圧力の強まりから海外企業は現地生産を増やしているものの、この結果、米国の対外債務は急増しており、基軸通貨のメリットを活かし黒字を確保してきた第一次所得収支も足元で赤字に転じた。対外ポジションの赤字拡大と相俟って、基軸通貨としてのドルの基盤が脆弱になり始めている。

一方、製造業の復活にも高いハードルがある。まず、米国の高い人件費を踏まえると、安価に調達できる資源を活用しない限り生産能力の向上は期待し難い。また、移民に労働供給の多くを頼る状況にありながら、移民規制を強化することで人手不足が深刻化するほか、中長期的な成長期待も低下するため、よほど資本集約的な産業でないと、業容拡大は期待できない。さらに、対新興国通貨では構造的にドル高となりやすく、安価な輸入品の増加による価格引き下げ圧力にもさらされ続ける可能性が高い。このように、関税を賦課しても製造業の復活は極めて困難であり、仮に復活しても、これまで米国が強みとしてきた成長パターンが失われることで、成長ペースは鈍化が避けられない。

そうした観点に立てば、米国が保護主義姿勢を強めたからと言って、わが国企業としては安易な対米投資拡大には慎重であるべき。ただし、米国に安全保障の多くを依存しているなか、米国が製造基盤再構築に同盟国との協調が不可欠との認識を強めれば、わが国は相応に協力していく必要あり。その最大の障害は、「貿易赤字」=「負け」と見るトランプ大統領の単純化された経済認識。ポスト・トランプまでを見据えれば、日米両国にとっての最終的な目標は、貿易不均衡の是正ではなく、中国に過度に依存しない経済の構築であることを米国に粘り強く訴えていく必要あり。


(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ