ビューポイント No.2025-008 最低賃金の政府目標達成に向けて~特定最低賃金の積極活用を~ 2025年05月26日 山田久石破内閣は、地域別最低賃金(全国加重平均)1500 円の目標達成時期を、前・岸田内閣が打ち出した「2030 年代半ばまで」から「2020 年代中」に前倒しした。この目標を達成するには、2025 年度から 2029 年度まで、年平均 7.3%の高率の引き上げを続ける必要がある。国際的に見た低賃金水準や人手不足で賃上げできない企業は存続が難しくなっている現実を踏まえると、その必要性は認められる一方、トランプ関税による景気下振れを勘案すれば、急ピッチなコスト高が健全な中小企業まで廃業に追い込みかねない。韓国の教訓からすれば、強引な引き上げは遵法意識を低下させる恐れもある。最低賃金の大幅引き上げの必要性に応える一方、中小企業の経営に対するマイナス影響や遵法意識の希薄化をどう避けるべきか。その突破口は特定最低賃金(特定最賃)の活用にある。使用者サイドは特定最賃に消極姿勢であるが、今や労働力不足の局面に入り、人材確保のために賃金を引き上げていくことは、企業にとって不可避の経営課題になっている。そうした状況下、ある県のある産業が、競合他県の地域別最低賃金水準より高い水準に、主体的に特定最賃を設定すれば、有効な人材確保策になる。特定最賃の積極活用には、手続きの改善が求められるほか、介護などを担うエッセンシャルワーカー部門で、政府のリーダーシップのもと、労働者の(できれば使用者も)3分の1以上のメンバーの署名を集めるかたちでの導入を目指すべきである。加えて、生産性向上策をセットにして、賃金底上げと産業基盤の維持を同時実現することが望ましい施策といえよう。望まれる政策運営としては、トランプ関税による景気下振れリスクを踏まえ、2025 年度の最賃引き上げの「目安」はせいぜい3%程度に抑え、「2020 年代中に 1500 円」の目標は、特定最賃も含めたいわば実効ベースの最低賃金目標とすべきである。2025 年度については、特定最賃の導入に焦点を絞って施策を具体化し、必要な財政投入をしたうえで、エッセンシャル部門での最低賃金の大幅引き上げを目指すべきであろう。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)