今年の4月に高年齢者雇用安定法による「65歳までの雇用継続」に関する経過措置が終了し、企業は、「65歳までの定年引き上げ」「定年制の廃止」「65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入」のいずれかを導入することが求められている。厚生労働省(※1)によれば、令和5年6月1日時点で、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施している企業は236,815社、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施している企業は70,443社である。企業全体の約8割弱が就業機会の提供を65歳までとしているものの、今後は、70歳定年に向けた議論が活発になることが予想される。
一般社団法人定年後研究所が実施した調査(※2)によれば、70歳定年に対して、40~64歳のビジネスパーソンのうち、 63.8%が65歳以降も「現在所属する会社(同じ地域・職務)」で働くことが理想と回答し、「現在と同じ会社(違う地域・職務)」(6.6%)と合わせると、合計70.3%が現在と同じ会社で働くことを望んでいる。そのため、70歳定年が制度化された際には、多くの人たちが、今まで勤めてきた企業に就業継続を希望することが予想される。そのため、企業にとっても、シニアが組織のなかで活躍できる環境づくりが求められる。
最近では、一部の大企業において、70歳までの就業継続雇用制度の導入や役職定年制度の廃止を行うところが出てきている。役職定年制度廃止の企業であれば、役職定年を機にモチベーションの低下を防ぐことにもつながる。ただし、役職定年があることによって、管理職のポストが空き、次世代の登用につながっていた部分もあることを踏まえると、役職定年をなくす以上、そこには公正公平な視点を取り入れることがより重要となる。
また、両立支援という視点においても、超高齢化社会を視野にいれた支援を検討すべきである。独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した調査(※3)によれば、福利厚生のなかで、「財産形成」については、従業員側が企業に支援を求めている一方で、企業側は従業員が取組むべきと考えており、双方の意識に相違があることが分かっている。筆者自身、企業の取組みをお伺いしていても、ミドル・シニアを中心に、定年前の従業員に対するマネー研修などの取組みに留まっているという印象は強い。キャリア研修などと連携させながら、70歳定年を視野にいれた従業員向けの金融経済教育の拡充も必要だと考える。
総務省(※4)によれば、65歳以上が総人口に占める割合は29.3%と過去最高であり、少子高齢化が進む日本社会においては、今後もこの比率は増えることが予想される。企業は、シニアにとって働きやすい環境づくりに取り組むことが今後益々必要だと考える。
(※1) 「雇用政策研究会報告書」(2024年8月23日)データ関連

(※2) 一般社団法人定年後研究所 「第2回「70歳定年」に関する調査」

(※3) 独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査―企業/従業員アンケート調査結果―」(2020年7月)
(※4) 総務省統計局「統計トピックス No.142 統計からみた我が国の高齢者(令和6年9月15日)」

本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。