Economist Column No.2025-009
地方で加速する結婚の減少
2025年05月07日 藤波匠
【本論考は、共同通信社のkyodoWeekly 4月21日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】
少子化が止まらない。2024年の日本人出生数は、70万人割れが確実である。ここ数年は前年比5%以上の下落率が続いており、少子化に拍車がかかっている。
少子化の背景には、婚姻数の減少がある。近年、さまざまな研究機関や団体などで、若者が非婚・晩婚となる理由を明らかにする調査・分析が実施されている。それらによれば、伸び悩む実質賃金を背景に、家族を養う経済的な負担の大きさなどから若い世代の婚姻意欲が低下している、と指摘する分析結果が多く見られる。また、独身者の多い東京などに若者が集中し過ぎていることも、日本全体で婚姻数が減る一因であるとの指摘もある。
このような分析や考察が正しい一方、近年の結婚動向を精緻に分析してみると、通説だけでは説明し切れない、異なる要因が見えてくる。結婚している人の割合を示す指標として、特定の年齢時点での有配偶者の割合である「有配偶率」を見てみよう。
35歳男性の有配偶率について、2000年から2020年までの推移を都道府県別に見ると、いずれの年も東京都が最も低い状況にある。しかし、東京都の場合、2005年以降有配偶率は横ばいで推移しており、低下は見られない。逆に、その他の地域、特に地方部では有配偶率の低下が止まらず、東京都との差異が小さくなりつつある。有配偶率で見る限り、地方が東京化していると言えよう。非婚・晩婚は、若い世代の婚姻意欲の低下と東京一極集中ばかりが理由ではなく、地方こそがその震源地となっていることを見過ごすべきではない。
では、今なぜ地方で有配偶率が下落しているのだろうか。筆者が2000年以降の都道府県別データを分析して明らかとなった地方における有配偶率低下の理由は、次の2点である。
一つ目は、地域ごとの男女人口バランスの悪化である。製造業を主力産業とするような地域を中心に、若年女性の大都市圏への流出を食い止めることができず、女性に対する男性人口の比率が高い県がある。こうした地域で、男性がパートナーとなる女性を見つけづらい状況が生じている。
二つ目は、地方で進む核家族化である。東京など大都市では、以前から核家族世帯中心の社会であったが、地方では、結婚した人が親世代と暮らす多世代同居の伝統的な家族構成が一般的な地域が少なくなかった。ところが、近年は地方でも核家族化が急速に広がっている。伝統的な家族形態から核家族中心の社会への変化が、親が子にお見合い相手を紹介したり、結婚を促したりするなどといった、子の結婚に対する親の働きかけを弱め、それが地方における有配偶率の低下を招いていると考えられる。また、核家族化の進展により子世代が自ら住宅を取得しなければならなくなることも、結婚へのハードルを高めている可能性もある。
近ごろは、親や親せき、ご近所さんが若者に対して「結婚はまだ?」、「彼女はできた?」などというお節介をはばかる風潮が見られる。個人の自主性やプライバシーを尊重することは大切であるものの、その反作用として、結婚しない若者が増えている可能性は大きいと考えられる。
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