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Economist Column No.2025-008

開幕後の大阪・関西万博の評価と今後の課題

2025年04月30日 藤山光雄


4月13日に大阪・関西万博が開幕し、まもなく1ヵ月となる。実際に会場を訪れて感じたことや、各種報道、SNSでの反応などを踏まえ、ここまでの評価と今後の課題について簡単に記したい。

■コンテンツに対する満足度は上々
万博の開催をめぐっては、建設費・運営費の増額や海外パビリオンの建設の遅れなど、様々な課題が指摘されてきた。開幕後も、入場ゲートやパビリオンの混雑、雨や暑さ対策、会場内の案内の分かりづらさなどへの指摘がみられるものの、主に運営面の課題に対する指摘であり、万博のコンテンツに対するネガティブな意見はあまりみられない。むしろ、コンテンツに対しては、想像以上に良かったとの声が多い。大屋根リングの壮大さやリング上からの景色、海上の噴水ショーなどのイベント、パビリオンの展示や体験、コモンズ館を含め海外パビリオンで様々な国の人や文化と触れ合える点などが評価されている。実際に会場を訪れた人のなかには、1日だけでは十分に回り切れず、もう一度訪れたいと思う人も多いのではないだろうか。今後、こうした評価が、開幕前まで低調に推移していた来場機運の高まりにつながることを期待したい。

■運営面での課題は引き続き改善が必要
一方、運営面では依然として課題が残る。SNSなどでの厳しい指摘については、改善すべきところは改善しつつ、アジャイルに対応していく必要がある。とりわけ、雨と暑さ対策は、今後、梅雨や夏を迎えるにあたって対策が不可欠となる。入場ゲートや各パビリオンの混雑対応などは徐々に改善されているものの、最も混雑する日には20万人を超える来場者が見込まれており、引き続き状況に応じた検討が求められる。
パビリオンの予約の要否や待ち時間に関する情報提供にも、改善の余地がある。規模の大きなパビリオンの多くは予約を受け付けているものの、実際には当日枠を設けており、少し並べば入場できるパビリオンも多くある。また、特徴のある建造物を眺めながら会場内を散策したり、あまり人が並んでいない海外館を訪れたりしても、十分に万博を楽しめる。「並ばない万博」への取り組みは評価できるものの、「予約がないと楽しめない」という印象を与えてしまった面もあり、予約がなくても楽しめる点を改めてアピールしていくことも必要だろう。

■企業のビジネス機会創出や子どもが気づきを得る場とするために
観光コンテンツとしての万博の評価が高まりつつある一方、万博の開催には、「大阪・関西、そして日本の成長を持続させる起爆剤」(万博協会ウェブページ「開催目的」より)としての目的もある。
万博を一過性のイベントに終わらせず、関西経済あるいは日本経済の成長に資するものにしていくためには、万博を訪れた人々が、いろいろな企業・団体が提供する最新技術や実証実験に触れ、ビジネスのヒントや企業間のつながりを得る機会を増やしていく必要がある。ただし、パビリオンが混雑してくると、個人として訪れる人々や中小企業では、関連するパビリオンへの入場やイベントへの参加が難しくなる。経済団体や自治体が音頭をとって、来場を希望する関係者向けのツアーを企画するなど、できるだけ多くの企業にパビリオンを訪問する機会が設けられることを期待したい。
また、次世代を担う子どもに様々なパビリオンを体験してもらい、未来の社会や自分達の将来を考えてもらうことも万博の重要な役割といえる。パビリオンを外から眺め、万博の雰囲気を感じることも貴重な経験ながら、それだけではもったいない。ただし、今回の万博では展示だけでなく体験を重視したパビリオンが多く、一人当たり体験時間が長くなるなどの理由から、団体の受け入れが難しいパビリオンもある。学校関係者による効率的で安全な引率が難しいことも考えられる。こうした難しさがありつつも、子どもたちが見るだけでなく「体験」することで、できるだけ多くの気づきを得られるよう、万博協会や各パビリオンなどで積極的な受け入れを検討してもらいたい。

■重要性が高まる国際協調の場
最後に、期せずして、国際協調の場としての万博の重要性が高まっている。米国では、「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ大統領が誕生し、関税の大幅な引き上げをはじめとした国際協調に反する政策が推し進められている。こうしたなか、158の国と地域、7つの国際機関が参加する万博は、世界の分断ではなく、国際協調の重要性を確認する貴重な機会となる。日本にとっても、トランプ関税への対応策として貿易の多角化が求められるなか、万博を新たな輸出先や取引先の開拓に積極的に活用していく必要がある。

<参考文献>
日本総研ビューポイント「開幕後の大阪・関西万博をみる視点 ~機運醸成、関西での観光促進、成長産業の育成、夢洲のまちづくり~」(藤山光雄、2025年3月13日)

※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。


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