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JRIレビュー Vol.6, No.124

公共セクターのDX を支えるGovTech の動向-スタートアップとの共創エコシステムの形成に向けて-

2025年04月30日 野村敦子


GovTechは、GovernmentとTechnologyを組み合わせた造語である。正式な定義はないものの、公共セクターで使用される革新的な技術やツールを指すばかりでなく、これを活用して行政・社会の課題解決や組織の変革、新たな価値の創出などに取り組む活動、スタートアップ・中小企業など新たなプレイヤーを中心としたイノベーション・エコシステムを指すことも多い。対象分野は、①住民向けサービスのデジタル化、②行政機関における業務のDX、③市民との接点・コミュニケーション・参加方法の改善、④その他(データ連携基盤など)に分類され、行政の利便性や効率性の向上のみならず、官民のコミュニケーションや協働の促進、信頼の醸成などにも繋がることが期待される。

世界各国でGovTechが推進されているが、その背景には、①デジタル技術の進化と導入の容易化、②行政側の財政・人員の制約や新たな技術への対応、③市民のデジタル技術に対する受容性向上やニーズの多様化、④新しい技術や市場を開拓する起業家や新興企業の登場、などに伴い、公共セクターにおけるDXの機運が高まっていることがある。とくにスタートアップは、技術の進歩や顧客のニーズに柔軟かつ機動的に対応し、UI・UXやコスト効率に優れた新たな製品・サービスを創出することに長けている。そこで、海外ではGovTech分野のスタートアップの育成や公共のビジネスへの参入障壁の解消、エコシステムの形成などに取り組む動きも活発化している。なお、公共セクターのDX推進とともにGovTech市場も成長が見込まれ、2034年の市場規模が1.4兆ドルに達するとの予測(WEF)もある。

先行事例の一つが、EUである。従来は、デジタル戦略やデジタルガバメントの一環として、加盟各国で個別にGovTechの取り組みが進められてきたが、EU全体での成果や経験の共有、関係者のネットワークやエコシステムの構築、関連情報の収集・提供の一元化などを目的として、欧州委員会がGovTechプログラムを立ち上げている。主要プロジェクトの一つであるGovTech Connectは、人材や組織、情報が集積するプラットフォームの構築を目指すものである。GovTech 4Allは、複数の国やGovTech組織がデジタル公共サービスの開発・実証実験に協働で取り組むプロジェクトである。

わが国においても、GovTechの推進が行政運営・行政DXに不可欠との考えから、これに注力する自治体が出てきている。例えば、神戸市は2017年よりスタートアップと市職員が地域の課題解決に向け協働して取り組む「Urban Innovation KOBE」(2024年より官民連携課題解決プログラム「So-I」として内容を一新)を実施している。東京都は、2023年に官民協働プラットフォームとして一般財団法人GovTech東京を設立し、都と都内区市町村のDXの支援、デジタル人材の確保・育成、システム・サービスの共通化・共同化などを推進している。

わが国におけるGovTech市場の振興やエコシステムの形成に向け、先行事例も踏まえ、①イノベーションに資する公共調達改革の推進、②継続的な共創の場の創設とDX人材の育成、③GovTech市場の枠組みの検討、に取り組むことが求められる。これらの施策を進めるにあたっては、EUの視座から学ぶべき点は多い。具体的には、共有・堅持すべきビジョンやフレームワーク・ルールの徹底、施策・組織間の有機的な連携、調査研究の積み重ねや成果・課題の分析・評価、情報や人材・組織の所在の可視化とネットワーク化の推進、相互運用性の確保などである。また、GovTechに取り組むにあたって、わが国は行政の無謬性に囚われがちであるが、デジタル技術や業務の変革に挑戦しようとする姿勢の賞賛や失敗を受け入れる寛容性など、意識の変革にも取り組むことが肝要である。


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