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Economist Column No.2025-006

ガソリン補助金の問題点と求められる取り組み

2025年04月25日 栂野裕貴


4月22日、石破首相は、物価高対策として、5月22日から全国のガソリン価格を1リットルあたり10円引き下げる方針を示した。ガソリンに加えて、軽油・灯油・重油・航空機燃料に対しても一定額の引き下げが行われる。2022年1月に、燃料価格高騰への“激変緩和措置”として導入されて以降、3年以上もの間続けられてきた「ガソリン補助金」が、さらに継続されることになる。

■3つの問題点 ― 公平性の欠如、財政負担の拡大、燃料需要の高止まり ―
ガソリン補助金は、家計や企業の負担軽減を通じてわが国景気を下支えしてきたものの、次の3つの問題点を抱えている。
第1に、公平性の欠如である。総務省「家計調査」によると、2024年にガソリン(軽油含む)を購入した二人以上の世帯は全体の6割に過ぎず、残りの4割は補助金支給の対象外になる。ガソリン消費量は各世帯の所得水準や地域ごとに異なるため、補助額には所得差や地域差も生じる。たとえば、10円/ℓのガソリン代補助によって、所得上位2割の世帯が受け取る金額は1世帯あたり年換算で5,477円である一方、下位2割の世帯が受け取る金額は同2,607円にとどまると試算される。地域別の試算では、ガソリン購入量が最も多い鳥取市に住む世帯が受け取る補助額は同6,640円となり、購入量が最も少ない東京都区部に住む世帯が受け取る補助額(同1,318円)の5倍になる。企業部門においても、ガソリンを多く消費する輸送業等への恩恵は大きい一方、ガソリンをそれほど使わない産業への恩恵は小さい。
第2に、財政負担の拡大である。これまでガソリン補助金に拠出されてきた予算は累計8.2兆円まで積みあがっている。石油連盟がまとめた2024年の燃料油販売実績に基づくと、5月22日から来年3月までガソリン補助金(軽油・灯油・重油・航空機燃料の価格引き下げ分も含む)を支給する場合、少なくとも7,700億円程度の財政資金が必要になる。こうした歳出拡大は他の施策に投じる財政資金を圧迫するほか、最終的には税などによって国民が負担することになる。
第3に、燃料需要の高止まりである。ガソリン等の燃料価格の引き下げは、家計や企業の省エネ機運を削ぐことに加えて、高燃費車への買い替えや省エネ技術の研究開発の先送りなどにつながって、中長期的に燃料需要を高止まりさせる可能性がある。わが国は、ガソリンの原料となる原油等の化石燃料をほぼ全て輸入に依存しており、近年の貿易赤字の主因となっている。燃料需要が高止まりして貿易赤字が続くことになれば、円安圧力となって、ガソリン価格をさらに押し上げる悪循環も生じうる。また、燃料需要の高止まりは、わが国政府が推進する社会・経済構造を化石エネルギー中心からクリーンエネルギー中心に転換するグリーントランスフォーメーションにも逆行する。

■「出口」に向けた取り組みが急務
以上の問題点を踏まえると、わが国はガソリン補助金から早期に脱却するべきである。短期的には、物価高に苦しむ低所得世帯や中小企業等に的を絞った給付等を拡充する一方、燃料価格の上昇を容認することで、家計や企業の省エネインセンティブを高めることが重要である。また、中長期的には、電動車を含む高燃費車の研究開発の支援や、高燃費車への買い替え促進策を強化したり、地方自治体等が電動車の充電インフラを整備するための支援を拡大することなどが考えられる。わが国政府には、こうした取り組みを通じて、燃料価格の動向に左右されない社会・経済構造への転換を着実に進めていくことが求められる。


<参考文献>
栂野裕貴[2023]. 「わが国に求められるエネルギー補助金の「出口戦略」」日本総研Research Eye No.2023-047(2023年10月4日)

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