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Economist Column No.2025-007

地方銀行に求められる「攻め」の再編戦略

2025年04月25日 大嶋秀雄


地方銀行(地銀、注1)において、合併・経営統合(以下、再編)の動きが広がっている。本年に入っても、1月に愛知県の愛知銀行と中京銀行が合併して「あいち銀行」が発足、青森県の青森銀行とみちのく銀行が合併して「青森みちのく銀行」が発足した。今後も、長野県の八十二銀行と長野銀行が2026年1月に、福井県の福井銀行と福邦銀行が2026年5月に、フィデアホールディングス(HD)傘下の荘内銀行(山形県)と北都銀行(秋田県)が2027年1月に合併する予定である。直近でも、4月24日に第四北越フィナンシャルグループ(FG、新潟県)と群馬銀行(群馬県)が2027年4月を目途に経営統合を目指す基本合意を締結した。

■低金利環境下における地銀再編
わが国では、これまでも地銀の再編が行われてきた。90年代後半の金融危機以降、低金利環境の長期化によって国内銀行ビジネスの収益環境が著しく悪化したことに加えて、人口減少による地域経済の縮小圧力も強まり、地銀セクターでは、店舗・システム・本部機能の統合などによる、経営基盤の強化を主な目的とした再編が広がった。金融庁も、2018年に公表した報告書「地域金融の課題と競争のあり方」のなかで、23県では1行単独でも本業(貸出・手数料ビジネス)の採算確保が難しい(注2)と指摘するなど、地銀ビジネスの持続可能性に警鐘を鳴らした。
こうした状況下、政府は、地銀の再編を後押しする政策を打ち出した。2016年の銀行法改正では、銀行持株会社が共通・重複業務を持つことを認め、合併に比べて統合負荷が小さい持株会社の傘下に複数の銀行が入る形態での経営統合を可能としたほか、2020年の独占禁止法特例法では、同一地域の地銀の合併等に独占禁止法を適用しない特例措置を導入、2021年の金融機能強化法改正では、経営統合コストの一部を助成する資金交付制度を導入した。

■地銀を取り巻くビジネス環境の変化
低金利環境下では、経営基盤の強化を目的とした再編が多かったが、近年、地銀を取り巻くビジネス環境が大きく変化し、地銀における再編の位置づけも変わりつつある。
地銀のビジネス環境をみると、まず、金利環境が大きく変化している。昨年3月、日本銀行はマイナス金利政策を解除し、長短金利を操作するイールドカーブコントロールから、無担保コールレート翌日物の誘導目標を設定する政策枠組みに変更した。さらに、昨年7月、本年1月にも追加の利上げを行い、わが国では「金利のある世界」への回帰が進んでいる。こうしたなか、貸出金利の上昇によって預貸ビジネスの収益環境が改善する一方、貸出の原資となる預金の重要性が高まり、預金獲得(=顧客獲得)に向けた競争が活発化している。
一方、金融サービスのデジタル化が進むなか、異業種の参入等によって競争環境は厳しさを増している。ネットバンクやFintech企業が急成長しているほか、近年は、ネットバンク等が提供するプラットフォーム(Banking as a Service(BaaS))を活用して、ブランド力のある事業会社がサービスに金融サービスを組み込む動きも広がっている。デジタル化は不可逆的な変化であり、顧客の流出を防ぐために、地銀においてもデジタル分野の強化が急務となっている。
加えて、地銀に多様な役割が期待されるようになっている。近年、地方創生や人手不足への対応、デジタルトランスフォーメーション(DX)・グリーントランスフォーメーション(GX)といった地域課題の解決に向けた取り組みが広がるなか、地銀に対して、資金面の支援だけでなく、地域企業に対する経営コンサルティングや具体的なDX・GX支援など、非金融面の支援も期待されるようになっている(注3)。
これらのビジネス環境の変化を受けて、地銀では、デジタル金融サービスや非金融サービスの強化などによって、提供するサービスの多様化や付加価値向上が喫緊の課題となっており、再編についても、こうしたビジネスの成長戦略のなかに位置づけることが重要となっている。

■成長戦略に向けた「攻め」の再編が重要に
今後、地銀においては、経営基盤の強化を目的とした「守り」の再編ではなく、ビジネスの成長に向けた「攻め」の再編が重要となる。
経営基盤の強化に向けては、店舗統廃合等の効果が大きく、競争緩和も期待できる同一県内の再編が有効であったが、ビジネスの成長に向けては必ずしもそうではない。新たなデジタル金融サービスや非金融サービスの展開・収益化では、より多くの取引先に提供できる「面の拡大」が有利であり、ビジネスエリアや取引先の重複が多い同一県内の再編ではなく、広域の再編によって、ビジネスエリア・取引先を広げることが有効となる。なお、広域の再編では、各行の地域でのブランド力を維持するために、持株会社の傘下に各行が入る形態が多いが、形だけの経営統合にならないよう、経営企画・内部管理・営業支援等の本部機能やシステムなどをしっかりと統合することが重要となる。また、本部機能等の統合によって発生した余剰人材を、新たなサービスの強化などに有効に活用していくことも重要となる。
地銀がビジネスの成長に向けた再編を進めることによって、地域経済にとってもよい効果が期待できる。地銀におけるサービスの多様化や付加価値向上の恩恵を受けられることに加えて、複数の地銀が存続することが難しい県であっても、広域展開する地銀であれば複数展開できる可能性があり、地域にとって選択肢が増えることになる。また、地銀が先んじて地域の壁を乗り越えていくことによって、地域企業の広域展開を後押しすることも可能となる。地銀には、成長戦略に向けた「攻め」の再編を活用して、ビジネスの成長と地域経済の活性化につなげていくことが期待される。

(注1)本稿では、地方銀行と第二地方銀行を合わせて地方銀行とする。
(注2)2016年3月末時点のデータによる試算。
(注3)詳細は、大嶋秀雄[2025]. 「「金利のある世界」で地銀に求められる本業支援の強化」日本総研Research Focus No.2024-060(2024年12月27日)。


<参考文献>
大嶋秀雄[2020]. 「「地方銀行に求められる再編戦略とは~地方創生と事業成長の好循環に向けた「地域×業務」の拡大~」日本総研Research Focus No.2020-027(2020年11月11日)



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