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ビューポイント No.2025-004

トランプ政権100 日を振り返る~「戦後の米国」を全否定。二段構えの対応を~

2025年04月23日 石川智久


4 月 29 日でトランプ政権は発足後 100 日となる。この間、まさに疾風怒濤の勢いで様々な政策を打ち出してきたが、その多くが第二次世界大戦後に米国が進めてきた自由貿易、国際協調、多様性尊重等をいわば全否定するものである。

より詳しくは、大きく5つ指摘できる。まず、第1が、世界への関税戦争の宣戦布告である。4 月 3 日に報復関税を実施し、その後一転して中国を除く多くの国に 90日間の一時停止したが、先行き予断を許さない状況である。今後の展開を予測すると、政権内で経済重視派の主張が盛り返しているほか、各国と米国の交渉も難航するとみられるなか、当面、わが国を含む多くの国に対し一律 10%の追加関税は適用されるが、向こう1~2 年程度の間はそれ以上の追加関税はないと想定する(ただし、中国には 100%超、メキシコ・カナダには 25%の追加関税)。この想定の下では、2025 年の世界経済の成長率は、好不況の分かれ目と言われる3%をやや下回る停滞色の強い状況となる見込みである。仮に、90 日の一時停止後、当初の関税案が全て実施された場合には、米国の関税率は約 40%と悪名高きスムート・ホーリー法が施行された 1930 年代よりも高くなり、世界経済の成長率は2%前後と、厳しい不況に陥ろう。

第2が、外交政策の大幅な路線転換である。ウクライナ情勢を巡りロシア寄りの姿勢を示したことで、欧州各国では、今後安全保障で米国を当てにできないとの考え方が強まっている。例えば、ドイツは防衛力増強に向けて財政拡大を可能とする基本法改正を実施するなど、世界的な軍拡競争の恐れも高まりつつある。また、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる機密情報共有枠組みであるファイブ・アイズにも亀裂がみられる。さらに、WHO 脱退や、開発援助を行ってきた米国政府機関 USAID の縮小等、反国際協調的な政策も実施されている。

第3が、反移民政策である。国境における不法移民の新規流入の抑制といった水際対策に加え、既に米国に居住している不法移民の大量強制送還を実施している。水際対策については、州兵を含む軍の活用を明言しているほか、大量強制送還に関しても、予想以上に速やかに動いている。

第4が、反 DEI 政策である。トランプ大統領は、DEI をバイデン政策の主眼と見ており、非常に敵視している。連邦政府の DEI プログラムを廃止する大統領令に署名するほか、多様性を推進してきた米国の大学を「リベラル過ぎる」として補助金等をカットした。こうした動きを嫌気した研究者等による米国からの頭脳流出が懸念される状況である。

第5が、脱炭素への後ろ向きな対応である。選挙戦から「掘って掘って掘りまくれ」とのスローガンのもと、石油・天然ガスを増産する姿勢を明確化している。実際、就任直後にパリ協定から離脱し、その後、米国の企業や金融機関が国際的な脱炭素の枠組みから離脱する動きが加速している。

こうしたなか、わが国としては、同盟国である米国との決定的な関係悪化を避けつつ、米国の方針転換による悪影響を最小化することが重要といえる。そのためには、足元の政策変化によるショックを極力和らげる短期的な政策対応と、大きな構造変化を睨んだ中長期的な戦略が必要である。

短期的には、①粘り強い関税交渉、②悪影響を受ける企業への資金繰り支援等のショック緩和策、が重要である。中長期的には、①CPTPP 強化等を通じた欧州・豪州・グローバルサウス等との貿易拡大、②米国からの頭脳流出を受け入れる体制整備、③欧州と米国で考え方が相違している環境・多様性問題への現実的なアプローチの提案、④激変する国際環境に対応できる国内構造改革、⑤変化する安全保障や通貨のあり方についての国民的な議論、が重要である。

わが国は、第二次世界大戦後、ニクソンショック、オイルショック、プラザ合意後の超円高等の様々な経済的なショックを乗り切ってきた。トランプ政権の様々な政策はこれに匹敵するか、もしくはそれ以上の衝撃を世界規模で与えている。こうした時こそ、過去の激変する環境に対応してきた歴史に学び、この国難を克服する政策を迅速に講じていく必要がある。


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