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農業技術指導を生成AIで支援するV-farmersサービス

2025年04月22日 前田佳栄


 日本の農業における課題の一つが農業技術の継承である。農業者は毎年異なる気象条件の中で日々試行錯誤しながら、安定生産や高収量・高品質などの目標に向かって農業技術を蓄積している。農業者の高齢化の進行により、ベテラン農業者の技術が継承されることなく絶たれてしまえば、日本の農業にとっての損失は大きい。

 現在、農業技術の指導には都道府県職員の普及指導員、JAの営農指導員などがあたっている。指導員は、産地や研究機関などで蓄積された知見を基に指導を行っているほか、ベテラン農業者の工夫や新たな技術を見抜き、地域に普及させる役割も担っている。ただ、近年のスマート農業等の技術発展や環境負荷の低減に向けた取組の推進等により、指導の際にはより深く幅広い知見が求められるようになってきた。また、普及指導員数の削減等により一人当たりの業務の負担が増加し、現場での指導にあたる時間がとれなくなっているケースも散見されている。特に、若手の指導員の場合には、農業者から相談を受けてもすぐには答えられず、都度自分で調べたり、先輩の指導員に聞いたりする必要があるため、負担が大きい。また、先輩の指導員も多忙であるため、聞くのを躊躇してしまうこともあるとの声も聞かれる。

 日本総研では、そうした若手指導員の負担軽減を目的として、生成AIを活用した新たな「V-farmers®」サービスの実用化に向けた研究開発を推進している。ユーザーがV-farmersアプリに農作物の症状についての情報(テキスト・画像など)やこれまでの栽培履歴などを入力して質問すると、生成AIは、研究機関が発行する論文や作業マニュアル、産地のJAなどが農業者に配布している指導用資料、過去の指導事例などを検索し、適切と思われる対処方法の選択肢を提示するというサービスである。これにより、ユーザーである若手指導員は、自分で一から調べるよりも早く対処方法を絞り込むことができ、業務の効率化に繋がる。

 なお、政府では農業の新たな姿として、IoT、AI、ロボティクス等の先進技術を活用したスマート農業の推進に注力しており、その一環として農業用生成AIに関する取り組みも進めている。内閣府の「研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)」の採択課題であり、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が中心となり推進している『AI農業社会実装プロジェクト』では、営農指導活動の支援のための農業用生成AIの開発が進められている。V-farmersではそうした国主導の研究とも連携しながら開発を進めていく計画となっている。
 
 このサービスは、気候変動への適応にも効果を発揮する。近年影響が顕在化している気候変動に対して、農作物の栽培では、気候に合わせた作業時期の変更や病虫害対策、新たな品種の作付けのような取り組みが多く行われている。V-farmersはこれらの取り組みの中から好事例を蓄積することで、産地とともに成長していき、気候変動による失敗リスクの軽減に貢献する。産地ぐるみでV-farmersを使いこなし、好事例の収集と幅広い農業者への技術普及のサイクルを回すことで、産地全体での品質向上によるブランド化や安定生産による需要家からの信頼獲得に繋げることができる。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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